『大穴』

大穴 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 12-2))
職場の先輩に「お薦め」と言われて貸してもらった、ディック・フランシスの競馬ミステリ。
私は競馬ファンなのに、ディック・フランシスの小説はこれまで一度も読んだことはなかった。しかし最初に読んだ本作が思いのほか面白かったので、これからチョコチョコ読んでいこうと思う(なんせこの作者は多作なので、翻訳作が山ほどある)。


不慮の事故で現役を退いてから、探偵会社に名ばかりの顧問として雇われ飼い殺しになっていた元チャンピオン・ジョッキーが、ある事件をきっかけに不屈の精神を取り戻し、かつての経験を活かして競馬場の買収工作を阻止するというお話。
サスペンスとしての仕掛けや筆致もかなり魅力的でグイグイ引き込まれたが、この本を読んで最も興味深かったのは、英国の競馬場が各場ごとに株式会社組織として運営されているという点。本作でも悪人がシーベリィ競馬場(架空の競馬場)の株をバイアウトしようとするのだが、そんな事態が起こりうることは、施行者が特殊法人または地方自治体に限られている日本では、ちょっと考えにくい。


しかし、たとえば大井競馬場東証一部上場している「東京都競馬株式会社」が運営しているし、JRA中京競馬場は、スタンドや周辺施設の一部が「名古屋競馬株式会社」という法人によって所有されている。もしこれらの株が誰かに買い占められたら、運営のあり方は大幅に変わってくるかもしれないし、「競馬なんかやめて宅地にしよう」といった話になるかもしれない。
とは言っても、上記2社はいずれも地方公共団体が大株主なので、第三者が株を買い占めて経営権を乗っ取るという可能性は限りなくゼロに近いのだが…。