『興奮』

興奮 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 12-1))
職場の先輩からちょこちょこと借りている、ディック・フランシスの競馬ミステリシリーズ。今回はシリーズ最高傑作の呼び声も高い、『興奮』を借りて読み終えた。

イギリス障害競馬界で、それまでまるで走らない馬が突然激走し大穴を開けるという不可解なできごとが相次いで起きる。競馬会の理事はこれを薬物を使ったドーピング事件と考え、さまざまな手を打つのだが、どうしても薬物が検出されない。
そこで理事の一人が、イギリス競馬界と何ら関係を持たないオーストラリアの牧場主である主人公に目をつけ、スパイとしてイギリスの厩舎に潜り込んでみないかと持ちかける。
それまでの平和だが平凡な日々に飢餓感を持っていた主人公は、渡英して下層の厩務員に扮し、問題のある厩舎に潜入捜査に入るのだが…

この物語を読んで思ったのは、イギリスは本当に階級社会なのだな〜、ということだった。主人公がだらしのない格好をして先のとがった靴を履きもみ上げを伸ばすと、途端に「下層階級の人間」というレッテルが貼られる。反対に仕立てのいいスーツを着て髪をくしけずり髭を剃ると、立派な紳士としてみなされるわけだ。
厩務員の世界は下層の世界で、言葉も野卑でなまりが強く、その生活も最低のものとして描かれている。本当は育ちが良くちゃんとした教育も受けている主人公が、苦心して下層階級の人間を演じているところが、この物語の最大の見所。そのために上流階級の人間からひどい屈辱を受けたりするのだが、それに耐え続けるタフで自尊心の強い主人公。耐えて耐えて耐え抜いた末にうっぷんを晴らす、実に日本人好みのストーリー展開。
それにつけても、人は見かけで判断されるのだなあ。私もご婦人と会う際にはきちんとネクタイをつけるようにしよう(てきとー)。