『父・金正日と私 金正男独占告白』

父・金正日と私 金正男独占告白
東京新聞記者の五味洋治氏による、あの金正男氏の独占インタビュー本。
2004年、北京空港で正男氏に似た男の姿を見かけた筆者は、飛び込みで名刺を手渡し挨拶を交わす。その場では男はあいまいな受け答えで逃げるように姿を消すのだが、筆者も忘れた頃になって突然名刺にあったメールアドレス宛に金正男を名乗る男からメールが届く。以来、メールでのやり取りを重ねた末、相手が本物の金正男だと確信した筆者は、ついに北京での会見を持ちかける。
相手の指定したホテルに出向いた筆者の前に現れたのは、やはりあのときの男で、まぎれもない張本人だった。以来北京で計2回、マカオで1回、約7時間のインタビューと150通のメールを元にまとめられたのが本書である。
本人から直接率直なコメントを取れたということで、これはスクープであることは間違いないけど、発言や彼の思想(と思われるもの)を裏付けるものは、結局のところ何もない。ややリベラルな発言や、現金正雲体制から距離を置いたスタンスなど、もしかするとこの人が今後の北朝鮮情勢のキーパーソンになってくるかもしれない…という期待というか勘繰りは寄せられるものの、自分を重要人物に見せるため(あるいは逆に無害な人物に見せるため)の煙幕かもしれない。
謎は半分以上謎のままだ。


北朝鮮情勢とは関係なく本書を読んで思ったのは、筆者の「まめさ」が重要インタビューを引き出したという事実である。名刺交換なんて単なる社交辞令のようにも思えるけど、それがきっかけとなったごくごく細い糸を途切れさせずに大きな獲物を手繰り寄せたのは、ひとえに筆者の細やかな手紙(メール)の力と、実際に北京にまで会いに行く行動力なのだ。
社交辞令でも何でもいいから、私ももっといろいろ手紙を出したり人に会いに行くようにしようかな。