私とバクザン先生(わたばく)

書家の榊莫山氏が、3日に亡くなられていたと報じられた。
榊莫山さんが死去 自由な書風、独自の芸術追求 - 47NEWS(よんななニュース)


大抵の方と同様、「よかいち」のCMの印象くらいしかなかった私だが、あるとき氏の『自家菜園の愉しみ』というエッセイ集を読んでから、いっぺんにその人間性にひかれてしまった。

ちょっと読んでみただけで、もうほんとにいっぺんに氏のことや、その暮らしぶりに興味をひきつけられてしまった。
若くして名声を博しながら33歳で日本書芸院を退会し野に下った話や、詩人・茶人の谷川美代子さんに熱烈なラブレターを書き送って結婚した話、実家が莫山氏で17代目を数える由緒ある家で、またそのお屋敷の敷地がすごいという話、などなど…書以外のエピソードについても、掘り下げどころ満載の気配。
 ─2007年2月7日の日記より


…また私が新潟に住んでいたときに、越後出雲崎出身の良寛関連の本を渉猟していて氏の著書『わたしの良寛』にたどりつき、興味深く読んだこともあった。

…それにしても↓この写真すごいな〜、「良寛像に見入る筆者」。

“鬼気迫る”とはこのことか。
 ─2008年4月8日の日記より


『漢字ちょっといい話』という著作では、「莫山」という号、「榊」という姓、「齊(はじむ)」という本名について触れられていた。

のっけから「莫山」という号の意味が書いてあり興味深かった。それによると「莫」という漢字は、上下を「草」に挟まれた「日」を表しており、「暮」という文字と同じで草原に沈み行く夕陽を意味するのだそうだ。つまり「莫山」とは「日暮れの山」という意味。ただし何故それを号にしたかについては、「とくに意味がない」みたいなことを書いておられた。
それから苗字の「榊」についても、これはいわゆる国字で中国にはない和製漢字なので、中国に行ったときに名刺を差し出すと「神の木…?」と怪訝そうな顔をされると漏らしていた。
さらに、莫山先生の本名は「榊齊」と書いて「さかき・はじむ」というのだそうだが、「齊」という字を最初から「はじむ」と読めた人は一人もいないと言っていた。それはそうだろうな。
 ─2008年8月7日の日記より


書には疎いものの、著作を通して陰ながらお慕いしていた一読者として、心からご冥福をお祈りしたい。