『新・平家物語(十)』

新・平家物語(十) (吉川英治歴史時代文庫)
読了。完結まであと6巻。何とか年内に読めるかな…。
第10巻は木曽義仲の滅亡にほぼまるまる費やされている。さすがに粗野な山猿が都を追われて死ぬ…というのではかわいそう過ぎると思ったのか、義仲は美男子で快活、正妻の巴、愛妾の葵のほかに、雑兵山吹、藤原基房の娘・冬姫と、4人の女性たちがそれぞれのやり方で義仲への愛に殉じる姿が描かれる。
もっとも、義仲には義仲の言い分がある。以仁王の宣旨を奉じ都から平家を追いやったものの、後白河院は鎌倉の頼朝と気脈を通じ何やら画策しているし、「朝日将軍」というよく分からない称号をもらったものの日々の政治からは敬して遠ざけられる毎日。
最後にこんなふうに怒りをこらえ切れなくなる気持ちも、よく分かる。

「いや、日々の堪忍は、もう終わった。いつまで古池の公卿蛙に、そうそう、愚弄されていられるものか。今にして、この義仲にも思い当たっているぞ。以前、平相国清盛も、院に対しては、しばしば癇癖を発し、兵馬の鉄槌を下したと申すことだ。──げに清盛がやったのも無理はない」
「無理がないとの仰せは」
「清盛の仕方がわかるということだ。かかるうえは、兵馬にものいわせ、位階官職の任免もなしうる力を自分に持たねば、まことには、都にはいったかいもない。四位ずれの仕着せを賜うて、骨抜き同様にされ、公卿の末座に据えおかれるなど、ば、ばかな骨頂だわ。ばか気たこの道化衣装よ」
 義仲は、顎を上げ、自然、怖い顔をしながら、冠の紐をむしり切った。そして巴の方へ、
「着馴れた物をこそよ。はやく鎧を持って来い」
 と、冠をほうり投げた。

この辺、もう少しうまく立ち回れたらまた違っただろうに…と思うにつけ、その政治力を持っていた頼朝こそが初の武家政権を開くに至ったのは、やはり理由があってのことだと感じた。


さて、本巻で義仲の悲劇が語り終えられたところで、すでにして次の悲劇の前奏が聞こえてきている。言うまでもなく、源義経についてである。ここからはもう、悲劇に次ぐ悲劇で、読み進めるのも気力がいるなあ。