「海を飛ぶ夢」

海を飛ぶ夢 [DVD]
トム・クルーズ主演「ヴァニラスカイ」の元となった映画「オープン・ユア・アイズ」や、ニコール・キッドマン主演の「アザーズ」などなど、サスペンス映画の名作をものしているアレハンドロ・アメナーバル監督の作品。

若い頃に事故で首より下が動かなくなってしまった中年男性が、自身の尊厳を守るために死を選び取ろうとするのだが、当然のように周囲はそれに反対する。自死の権利を勝ち取る裁判のため呼び寄せた女性弁護士は、脳に障害を持っておりいつの日か完全に記憶を失ってしまう運命にある。2人はいつしか魅かれあい、ともに自死を選ぶことを約束するのだが…。

何故人は自殺してはいけないのか? あるいはどんなときに自殺は許されるのか? …本作のテーマ自体は非常に重く、ストーリーの表面だけ追っていくと人生賛歌の感動作のように見える。ただそこはサスペンスの名手のこと、単なるお涙頂戴映画には終わらせず、随所に皮肉やペーソスを隠している。


ベッドの上で首から上だけを動かし、空想の世界で「海を飛ぶ」主人公。この空を飛ぶシーンは本当に美しかった。だがその主人公の不自由な姿を見ているうちに、ハッと気付く。これは映画を見ているときの我々の姿と同じなのではないか?
空想の中ではどんなこともできるが、それゆえにそれは決して現実ではない。映画を見てその作品にどっぷり浸ったとしても、そしてそこから何かを感じ取ることができたとしても、それはつかの間の「海を飛ぶ夢」でしかないのだろうか?
だとしたら、そのことこそが本作に潜められた最大の皮肉かもしれない。