『標的』

標的―競馬シリーズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
以前職場の先輩から「お薦め」と言って貸してもらった、ディック・フランシスの2冊のうち1冊*1
ディック・フランシスの競馬ミステリは、一部の例外を除いてほとんど全ての作品で違う主人公が活躍する。本作の主人公は「サバイバルの達人であるとともに駆け出しの作家でもある男」という設定。その主人公が、ひょんなことから競馬の障害レースの名調教師の自伝を書くことになり、取材のためその調教師の屋敷に住み込むのだが、殺人事件に巻き込まれ、自らも命を狙われるはめになる。


さいとうたかをのマンガ「サバイバル」というのを読んだことがあるが、あれにも負けないくらいのサバイバル術がいろいろと披露される。何と言っても主人公自身、旅に出るときは全ての荷物を防水パックしている上に、本格的サバイバルキットを携行、さらには肌身離さず付けているベルトにも簡易サバイバルキットが仕込まれているというのだから、達人を通り越してもはやちょっとした変人の域である。
サバイバル (1) (リイド文庫)
そんな中で心に残った文は、「サヴァイバルは心のありようの問題」という文句だった。つまり、道具や環境の問題ではなくて、あくまで人間自身の気持ちの問題だという話。
実際に本作の主人公は、その心のありようを見事にコントロールして、半ば超人的な力を発揮し半ば運にも助けられ、生命の危機を何度と無く乗り越えていく。多少ご都合主義の部分もあるが、そこは作者の筆力で読者を決して飽きさせない。


あと、この本を読んでいると、自分でもアマチュアの障害レースに乗れるような気になってきた(実際には無理だけど)。英国の障害レースは、現実にアマチュアライダーが数多く参加しているようだが、アマチュア騎手とプロ騎手の確執なんて場面も興味深かった。その辺の描写は、まさに元チャンピオンジョッキーの筆者ならではのもの。

*1:もう1冊については2月25日の日記参照。