『馬の科学 サラブレッドはなぜ速いか』

馬の科学―サラブレッドはなぜ速いか (ブルーバックス)
競馬漬け第7弾。
この本は、JRAで競走馬を専門的に研究している「競走馬総合研究所」の獣医の人たちが、サラブレッドの身体的な特徴を部分ごとに分かりやすく解説したもの。私が現在持っているサラブレッドに関する科学的・獣医学的な知識は、ほとんど学生時代にこの本で読んだことによっている。何やらJRAでは馬インフルエンザによるレースの開催中止のニュースも入ってきたが、ここらでもう一度サラブレッドそのものの勉強をしてみようかと、約10年ぶりに手に取った。


今回再読して目に付いたところのメモ。なおこの本は1986年に初版発行なので、年数や競走馬の年齢の表記などは当時のもの。

 わずか三〇年ほど前までは、東京や大阪など大都市でも、馬車をひく馬や、乗用馬の姿を見ることができた。かつて一五〇万頭も飼われていたわが国の馬も、昭和二七(一九五二)年を最後のピークとして急減し、今ではやっと九万頭ほどが飼われているにすぎない。
 世界各国で飼われている馬の総頭数は六四〇〇万頭といわれるから、わが国ではほんの一握りの馬しか飼っていないことになる。

 …競走馬の場合、歯がさかんに生えかわるのは三歳から五歳にかけてであるが、この年齢は、同時に競走馬がもっとも活躍する時期でもある(ちなみに、三冠レースといわれる皐月賞、ダービー、菊花賞はすべて四歳時に行われる)。
 “歯がわりに当たって体調を崩した”などという談話が、競馬サークルではよくあるが、これはちょうど脱換の時期と大レースとが時期的に重なってしまい、思うように採食することができずに馬が体調を崩してしまったというものである。歯の生えかわりが一生に一度のチャンスを逃してしまうこともあるということだ。

 一般に広く通用する表現ではないが、馬の糞を“ball”と呼ぶこともあるらしい。日本の厩舎などで使われている「ボロ」ということばも、ここに由来しているという説もある、じつに的を射た、おもしろい表現である。

 馬の眼球は陸上の哺乳動物のなかでは最も大きく、奥行四四ミリメートル、縦径と横径がおのおの四八ミリメートルあり、その重量は約一〇〇グラムである。
 この大きな眼は頭の両側に位置し、左右の眼で同時に別々の物体を見ることができる(単眼視)。この様式は鋭い両眼視のできる範囲が狭い代わりに、きわめて広い視野を得ることが可能となる。
 草原で頸を伸ばし草をはむ馬はそのままの姿勢で肢の間をとおし、頭のすぐ後を除いた約三五〇度にわたって周囲を見渡すことができる。