『暗い森―神戸連続児童殺傷事件』

暗い森―神戸連続児童殺傷事件 (朝日文庫)
朝日新聞1997年10月18日付朝刊から3部に分けて連載された記事「暗い森 神戸連続児童殺傷事件」に加筆したもの。
同年6月に、14歳の少年が容疑者として逮捕されたとき、私は大阪で大学生をしていた。当時は塾の前などに、子供を心配する親たちの送り迎えの車列ができていたのを覚えている。


事件の背景について、朝日新聞の独自取材や客観的資料(公判記録や精神鑑定結果の抜粋、少年の書いた「挑戦状」などを含む)をもとに、できるだけ冷静につづっている。
「少年A」の生い立ちなどにも触れられているのだが、やや母親のしつけが厳しかったのかな、とは思えるものの、この程度の家庭はごくごくザラにあると思う。家庭や育った環境に事件の原因を求めるのは、無理があると思った。
そうでないとすれば、(私自身「父親」の一人として)子育てをする自信がなくなってしまう。


印象的だったのは、FBI元捜査官のロバート・K・レスラー氏が、容疑者逮捕の前にプロファイルを依頼されて、こんなふうに答えていたというくだり。

「犯人は17歳から、どんなに歳がいっても23歳ぐらいまで。学校の周辺地域に住んでいて、歩いての犯行だ。メッセージ(挑戦状)の内容は、よく若者の犯罪者が使う手で、本の文章や言葉から影響を受けたもの。子供時代に動物をいじめたり、殺したりすることに慣れている。通り魔事件と男児殺害は同一犯。発作的に起こした通り魔事件が容易に達成できたことから、次の段階として計画的に犯行に及んだのが男児殺害だ。警察が徹底して学校関係者に話を聞き、学校をやめたりトラブルを起こしたりした生徒がいなかったかを調べることだ。」

年齢以外はほぼ事実と合致している。当時テレビや新聞では、挑戦状や「バモイドオキ神」なる言葉を深読みをした推理が横行していて、一般に犯人は中年男性だと思われていたこと、また「通り魔(女児殺傷)」事件と男児殺害事件は別の事件と思われていたのと、実に対照的だ。
結局のところ、さんざん勘ぐられた挑戦状の文言は、実際にはマンガや小説から引用した言葉のコラージュだった。