『新・平家物語(二)』

新・平家物語(二) (吉川英治歴史時代文庫)
第一巻を読み終えて*1からちょっと日が開いてしまったが、ようやく第二巻を読了。今回は保元の乱(1156年)の顛末と、その3年後に勃発した平治の乱の幕開けまでが語られている。
学校の授業で必ず平安末期の「保元・平治の乱」というのを習うのだが、この2つの騒乱が日本史上で重要な理由は、それまで公家の飼い犬的存在だった武家たちが、これを機に政治の表舞台に出てくる点にある。
保元の乱の火蓋を切った、少納言信西による軍勢召集の詔勅を受けての下り。

 この日、この朝命こそ、それまでは、皇都の自衛でしかなかった武士の弓箭をして、敵へ向かっては敵をえらばず躍りかかれと、あえて、無制限な血の曠野へ放したものであった。東北の未開土や、西海の乱賊はべつとして、久しいこと、武力の恐怖を知らなかった奈良、平安以来の文化社会に、訣別を告げた日でもあった。

…ということで歴史の転換点でもあり、平家物語の悲劇の始まりでもある乱によって風雲急を告げる都ではあるのだけれど、吉川英治作品の特徴でもある「庶民目線」が、ここでも決して忘れられていない。戦争を起こすのは政治だが、下々の民草はそれらに翻弄されつつも、開き直りにも似た弱者の諦念でどっこい元気に生きていくのだ。
合戦のさなかにあって、都の庶民たちは源平の斬り合いを野次馬的に見物していた…という古書の伝が巻末の方で紹介されているのだが、存外そんなものだったのかもしれない。