『ウォッチメン』

WATCHMEN ウォッチメン(ケース付) (ShoPro Books)
本書のようなジャンルは、アメリカンコミック(アメコミ)ではなくグラフィックノベルとも呼ばれているそうで、とにかく400ページに渡って一こま一こまに詰め込まれた情報量が半端ではない。4月に購入して、ようやく今日読み終えた。


アメコミ世界のヒーローたちが、もし現実世界に実在していたらどうなるだろう? 悪を倒してくれるのはいいが、彼らは警察や軍隊といった法の下の組織を超越している、いわば超法規的存在なわけだから、国家からしてみればありがたいと同時に目障りな存在でもあるわけだ。
ウォッチメン』の世界は、「現実にヒーローが存在したアメリカ社会」というパラレルワールドが舞台。古きよき時代には歓迎されたヒーローたちも、その優れた能力ゆえにかえって社会から疎んじられるようになり、ヒーローの活動を禁じた法律が議会で可決され、ほぼ全員が引退している…という設定になっている。
そのリタイアしたヒーローたちが次々と殺害される事件をきっかけに、東西冷戦下の世界を「救う」ためにある壮大な計画が実行に移されるまでを描く悲喜劇なのだが、一歩引いて見ると奇想天外で穴の多いプロットも、徹底的に細部にこだわったキャラクター描写や人間関係の機微、「全ての存在は全ての時間・場所に偏在する」といった思想などが複雑に絡み合うことで、奇妙な説得力を持って読者に訴えかけてくる。感情移入せざるを得なくなってくるのだ。


物語の最後に提示される「見張り(watchmen)を見張るのは誰なのか?」という問いは、なかなか深いメッセージだ。以前読んだベルリンの壁に関する本*1の中に書いてあった、当時の東ドイツの警備兵は必ず複数人のグループを組んで行動していたのだが、それは壁の監視をするとともにお互いの見張りも行うためだった…というエピソードを、ちょっと思い出した。