『「R25」のつくりかた』

「R25」のつくりかた (日経プレミアシリーズ)
R25」の成功については今さらながらという気もするが、その創刊にあたり、ターゲットとしたM1層(20歳〜35歳の男性)を徹底的にリサーチして誌面を構成していった…という話が大変興味深かった。
一般にリサーチというと、大規模なアンケート調査を実施してその結果を分析する…という作業を想像する。R25の場合も最初はまさに10,000人規模のアンケート調査を行ったそうだが、実際に誌面作りの参考となったのはそこで得られた「定量的」なデータではなく、のべ数百人を対象に実施した対面インタビュー調査によって得られた「定性的」な情報だった。


著者は一例として、「あなたは普段新聞を読みますか?」という問いをした時の反応について書いている。
新聞や活字離れが著しいと言われるM1層なのに、調査をしてみると実に8割の人が「読んでいる」と答えたらしい。しかも全員が判で押したように「日経を読んでいる」という結果が出た。
これだけを見ると「M1層は意外と新聞が好きらしい」という結論に至りそうだが、著者たち創刊スタッフはそこをグループインタビューで深堀りして、「本当は読んでいないのに『読んでいる』と答えている」ことを発見し、その裏に隠れた「本当は世間並みに知識を持っていないといけないと思いながらも、じっくりと新聞を読む時間が取れず、紙面に並ぶ専門用語に敷居の高さを感じているM1層」という姿を浮き彫りにした。そこから「時事ニュースを分かりやすく噛み砕いて簡潔に紹介する」という誌面が誕生したわけだ。
グループインタビューを繰り返し行った結果、編集部のスタッフたちはM1層の気持ちが自然と代弁できるまで思考が整理できるようになったという(著者はそれをM1層の思考が憑依するという意味で「イタコ化」と表現している)。そこまで徹底してリサーチ結果を共通認識として持てるようになれば、記事として何が最適で何は避けるべきかという編集方針はおのずと固まってくるというわけだ。


我々はともすると、アンケート調査で出てきた数字を見て、何となく全てが分かったような気になりがちなのだが、実は数字には表れない重要な情報があるのだな、と気付かされた。
もちろん定性的な情報だけに振り回されるのもアレなので、そこは定量データとうまく使い分ける必要がある。