試みの地平線

その昔、まだ私がニキビ面の中高生だった頃の話。
人並みにメンズノンノだのポパイだのを読んだりもしていた私だったが、一番好きだったのは「ホットドッグプレス」という雑誌*1だった。
それもファッションのページは正直言ってどうでもよくて、ここだけは毎週立ち読みしてでも読んでいた…というコーナーが、北方謙三氏による悩み相談「試みの地平線」だった。


いまではすっかり三国志水滸伝など中国物の作家となってしまった(?)、ハードボイルド作家の北方謙三氏だが、とにかくその回答が破天荒で、「これが“ハードボイルド”なのか…」と子供心に唸ったものだった。
基本線は以下のとおり。
「片思いの相手に告白できない」「許せない奴がいるがどうしようもない」「友人だと思っていた奴に恋人を取られてしまった」…といった、青春時代特有のウジウジした相談が持ちかけられる。
それに対する北方氏の回答は、どんな悩み事であろうと大概「それはお前が童貞だからだ」というところに帰結。「とりあえずソープに行け」と言うのがお決まりのパターンだった*2


突然「試みの地平線」という単語を思い出して、懐かしくなってネットを探したら、今年こんな本が出ていたようだ。
試みの地平線 伝説復活編 (講談社文庫)
帯に伝説の名文句が踊っている。

「小僧ども、ソープへ行け!」

各章のタイトルがまたすごい。

第1章 ソープへ行け!
第2章 男がいい奴だと思ったらいい奴なのだ
第3章 俺の肩には凄い毛が生えているぞ
第4章 部屋のキーを貸せ、おまえの心を預かっていたい
第5章 死にたくなった時は本を読め
第6章 七転八倒しながら男は仕事をする
第7章 自分のルールを持っているか
第8章 俺の口髭は愛撫の時の武器である
第9章 人生は歩く影法師
第10章 男は根本のところで受けとめてやれ

このうち「死にたくなった時は本を読め」という相談は、実際に私もホットドッグプレス誌上で読んだのを覚えている。
「死にたい」という相談に対し、「とりあえずどんなものでもいいから本を50冊読みなさい。本が世の中に役に立つとは思ったことはないが、死にたいと思っている人間をとめるだけの時間は与えてくれる。50冊読んで、それでも死にたかったら、もう一度手紙をください」といった、いつもの破天荒ぶりを抑えた真摯な受け答えに、割と心を動かされた記憶がある。
いま世間では「自殺予告」という殺伐とした手紙が横行しているようだが、そんなふうに簡単に自殺を考えている人には、ちょっと読んでもらいたい悩み相談だ。

*1:2004年に廃刊

*2:興味をお持ちの方、懐かしく思った方、こちらに詳細が載っています。「死にたくなった時は本を読め」の相談もあります。→http://media.excite.co.jp/book/news/topics/059/p01.html