『鳥』

先日Newsweek誌で、「映画化作品は有名だけど全然知られていない原作の傑作小説」という趣旨のコラムを読んだ。
最近コーエン兄弟がリメイクした「トゥルー・グリッド」(「勇気ある追跡」)の原作(チャールズ・ポーティスという人が書いた)のほか、あの「ダイ・ハード」の原作(ロデリック・ソープという人の書いた70年代の小説『Nothing Lasts Forever』)などが紹介されていたのに並んで、ヒッチコック「鳥」の原作である本書、ダフネ・デュ・モーリアの『鳥』も挙げられていたわけだ。気になって図書館で借りてきて読んでみた。

十二月三日、一夜のうちに風が変わって冬になった。前日までは、のどかな秋日和がつづき、木々にはこがね色に色づいた葉が残っていた。いけがきもまだ緑をおびていた。すきで掘りおこされた農地はよく肥えていた。

…という書き出しから始まる短編「鳥」。私の誕生日と同じ12月3日の出来事だったのか。映画版よりも親子愛が強調されている感じで、理不尽な事態から妻子を守るべく奮闘するお父さんが頼もしい。あと、第一次大戦直後のアメリカ郊外の生活が興味深かった。


しかし表題作よりもぐっと印象に残ったのは、「瞬間の破片」という作品だった。とある老婦人が家の近所でタイムスリップ(?)してしまう話。原題の「The Split Second」というのがややネタバレなのだが。
こういう小品の発想や切れ味は実に鋭い作家だと思った。