その三「7時50分の双子姉妹」

私は毎朝、ラッシュを避けて早い時間に家を出て、8時前には会社に出勤する。
地下鉄の会社の最寄り駅から地上に出ると、この時間からそこそこ交通量の多い大通りが見えてくる。
その通り沿いの歩道を会社に向かって歩いていると、白い割烹着姿の美少女とすれ違うことがたまにある。彼女は洗いざらしの長髪を、あるときはピンで留め、あるときはゴムで無造作に束ね、つっかけ(ミュールなどというしゃれたものではない)姿で背筋を伸ばしスタスタと歩いていく。


そのうちに、私とすれ違った後、彼女は地下鉄の駅の入り口を出てすぐのところにあるビルに入っていくことを知った。午前8時前には必ずそうしてビルに入っていく。どうやら出勤時間が毎朝8時のようだ。


いつもと同じように8時前に最寄り駅から出てきた私は、やはりいつもと同じように向こう側から歩いてくる白い割烹着の女性が、2人に増えているのを見て驚いた。
徐々に近づいてくる彼女たちを見て、もう一度驚いた。ふたつの顔が、丁寧に作られた複製のようだったから。