『だから、あなたも生きぬいて』

だから、あなたも生きぬいて
私はもともと、古本屋の100円コーナーで一昔前のしょうもないベストセラーの類を探して買うのが趣味なのですが、そうしたクズみたいな(失礼)本で本棚が一杯になってきて、つれあいに「いい加減にしたら」と言われてしまいました。
それでちょっと本棚を整理しようかと思い、とりあえず30分くらいで読めてしまえそうだったこの本を、この週末に読んでみました(実際30分で読めた)。


前に『百年の誤読(ISBN:483560962X)』という本を読んだことがあって*1、これは著者の岡野宏文と豊崎由美の両氏が、いわゆるベストセラー本をボロクソにこき下ろす本なのですが、こき下ろされていることによって逆に読みたくなる本…というのがあるのですね。この本も、そうした本の一つ。


著者の大平さんは、中学生のときにひどいいじめにあって、自殺未遂をし、「両親に愛されていない」という誤解からズルズルと転落、不良少女となり、極道の妻になって背中に刺青まで入れてしまいます。しかしそこから、後に養父となる男性に教え諭され立ち直り、宅検→司法書士→司法試験と、すべて一発合格するわけです。つい最近までは大阪市の助役もされていたとか。


読む前に思っていたほど、気持ちの悪い啓発本…というわけでもなかったのですが、あまり共感するところはありませんでした。
なぜなら、この本を読む限り太平さんにとって「宅検」や「司法書士」、「司法試験」という資格は、どん底から這い上がるための一里塚みたいなものに過ぎず、その資格を取って何がしたかったのかに何も触れられていないからです。
弁護士になって何がしたかったのか? 超難関の司法試験を突破して、昔自分をいじめた人間を見返したかっただけ?


解説で、後に大平さんが弁護士として少年犯罪に携わっていることが書かれており、そうした道に進まれたのか…とうかがわせるところもあったのですが。
この本が書かれた経緯もあるのでしょうが、「これだけ堕ちて、これだけ立ち直った」ということの記述だけに終始しているようで、私には得るものの少ない本でした。司法試験受験前後の妙におちゃらけた筆致にも、その前の暗い過去とのあまりの格差に、読んでいて少し鼻白まされました。