『人は何で生きるか』

人は何で生きるか (トルストイの散歩道)
私立中央図書館の子供向け本コーナーで見つけた、子供向けのトルストイ短編集の一冊。タイトルを目にして手に取ったのだが(最近やや疲れている)、あとがきを読んで一気に興味を惹かれた。
訳者の北御門二郎という人の檄文のごとき「訳者あとがき」につづき、「解説にかえて」ということでその北御門氏の娘さんらしき人も一筆書いていて、それらを総合すると、幼少期にトルストイの『人は何で生きるか』を読んで感銘を受けた北御門氏は、後に帝国大学英文科を中退して野に下り、トルストイの平和主義を実践するべく兵役も拒否(いわゆる“良心的兵役拒否”)して熊本の田舎で晴耕雨読の日々を送ったのだという。すごいと思った。


ところでトルストイが本書で説くところの「人は何で生きるのか」の回答は、ずばり「愛のため」。それだけかと言ってしまえばそれだけなのだが。
トルストイ自身も『戦争と平和』や『アンナ・カレーニナ』といった大作を晩年は否定し、実直に働く農民や民衆たちが抱くような信仰心の中に安らぎを求めた…という話は知っていたが、そうは言いつつも伯爵家の跡取りだったトルストイ自身は最晩年まで領地からの収入や本の印税で恵まれた生活をしていたそうだ。著書の熱心な読者が訪ねてきては、その言行不一致ともいえる暮らしぶりに幻滅して帰っていった…というエピソードなどは、本書の最後に付けられた略年表で初めて知った。
まあ矛盾と葛藤の中で生きていた人なんだろうけど、割と長生きしちゃったから、あれやこれや言われたんだろうな…。レフ・トルストイという人物に、ちょっぴり興味を覚えてきた。次は『イワンの馬鹿』でも読もうかな。