『アムステルダム』

アムステルダム (新潮文庫)
イギリスの作家イアン・マキューアンブッカー賞受賞作品。
そもそもこのブログ「太陽の塔とか」は、2004年の1月2日、オランダ旅行から帰国したところから書き始めている。私にとって「アムステルダム」はよき思い出の地となっている。あの旅行からしばらくして、書店でそのものずばりのタイトルの本書を見付け、思わず手に取ってレジに走ったものの、そのまま書棚で眠らせていた。それが、今回つれあいが産気づいたときに病院に持っていく本を探していて、ふと目に留まったのだった。
とはいえ本書ではアムステルダムという町自体は、終盤にちょこっと登場するだけ。ほとんどがロンドンや湖水地方での出来事。そういう意味では期待外れだったかもしれない。
とある社交界の花形女性の死を契機に、英国を代表する作曲家と国民的新聞の編集長、外務大臣の3人(いずれもくだんの女性の元愛人)がそれぞれの地位から転落を迎えるという話。プロットとしてはそんなに意外性があるわけでもなく、オチというか結末もリアリティに欠けるのだが、流麗な文章に引き込まれてあっという間に読み切ってしまった。
訳者あとがきにも書いてあったが、作曲家の苦悩を作家のそれと置き換えれば、そのままイアン・マキューアンの苦悩とも取れるような表現が続き、正直言ってクラシック音楽オーケストレーションに明るくない私でも、そこが面白く感じられた。