『青春デンデケデケデケ』

青春デンデケデケデケ デラックス版 [DVD] 青春デンデケデケデケ (河出文庫―BUNGEI Collection)
芦原すなお・著。


1965年。香川の観音寺第一高校入学を目前に控えたある日、ラジオから流れてきたベンチャーズの「パイプライン」の、「デン、デケデケデケデケ…」という“トレモログリッサンド奏法”のエレキギター音を聞いて、主人公「ちっくん」は突然ロックに目覚める。
やがて高校でバンド“ロッキング・ホースメン”を組んだちっくんたちは、夏休みのアルバイトで稼いだお金で楽器を購入。祖谷峡谷でテントを張ってバンド合宿をしたりしながらロックに日々没頭する。


この作品については、大林宣彦監督による映画版*1のほうを先に見ていた。そちらは青春の淡い思い出を美しく、かつ甘くなりすぎないように絶妙に描いていて、私の大好きな作品。
映画版が面白いのに原作が面白くないわけもなく(その逆は真とは言えない)、この小説も非常に楽しく読んだ。


好きなことにのめりこんだ少年時代。恋にあこがれつつ、どうすればいいのかわからなかったあの頃。青春の美しい思い出たち。
とくに大きな挫折や危機を迎えることもなく、大団円の文化祭コンサートまで、甘酸っぱい物語が続いていくだけのお話。悪人は一人も出てこない。
祖谷峡谷のバンド合宿で、夕食にたらふくカレーを食べて夜空を見上げながらバンド仲間とふざけあい、やがてテントに横になった主人公は、寝付かれないままこんなふうに考えている。

 この世には悪意というものはないのだ、あったとしてもほんの少しのもので、善意の方がずっと多い──などと、ぼくはふとそんなたわけたことをぼーっとした頭で考えているうちに、やさしい祖谷の闇に包まれていつしか深い眠りに落ちた。

これがこの作品を貫くすべてだ、と思う。


それでいて甘ったるい話に堕していないのは、ユーモラスな讃岐弁の会話や、独特の語り口調などによるところも大きいのだが、ところどころで「最も幸せだった日々の、その後」を匂わせている、その余韻が効いているのだと思う。
主人公たちは、どうやら大人になったいまでも生涯の友人として付き合っているらしい。笑いを誘いながら「あるある」と頷かせる淡い恋愛談のあとには、必ず相手の少女がいま何をしているかが、ちょこっとだけ語られる(たいてい主婦になってオバハン化している)。
…そもそも物語自体も、文化祭でクライマックスを迎えたあと、ちっくんたちが高校を卒業するまでの「淡い余韻」のなかで筆が置かれている。
ともすれば蛇足になってしまうような挿話たちだが、それが余韻として効いているのが、芦原すなお氏の(そして映画版では大林監督の)手腕だろう。

*1:ちなみに舞台となった高校はid:ozimさんの母校だそうです。実際にロケでも使われたとか。また、関係ないですけど、わたしのつれあいの母校は「がんばっていきまっしょい」の舞台だそうです。これも実際にロケが行われたとか。「セカチュー」も高松が舞台でしたっけ? 何故か青春モノで四国が人気ですね。