「グラン・トリノ」

グラン・トリノ [DVD]
72年型グラン・トリノコブラジェットエンジン。かつての輝かしいアメリカを象徴するこのマシンを、物語の最後で主人公コワルスキーから受け継いだのは、移民の青年だった(コワルスキーの実の息子は日本車のディーラーになっている…)。
その移民たち、モン族というのは、ベトナム戦争で故郷を追われてアメリカに移住してきた人たちだとこの映画の中でも紹介されていたが、『地獄の黙示録』でカーツ大佐のもとでゲリラの王国を作っていた、あの人々もモン族がモデルである。
実はカーツ大佐にはCIA工作員のトニー・ポーという実在のモデルがいて、彼は実際にモン族を組織して北ベトナムの補給ルートを絶つべく暗躍したそうだが、後に多数のモン族を政治亡命者としてアメリカに連れ帰り、カリフォルニアにコミュニティを築いて暮していたという(この話は町山智浩氏の『キャプテン・アメリカはなぜ死んだか』というコラム集に詳細が載っている)。

キャプテン・アメリカはなぜ死んだか 超大国の悪夢と夢

キャプテン・アメリカはなぜ死んだか 超大国の悪夢と夢

移民といえば、主人公のコワルスキー自身も、おそらくはその苗字が示すように移民もしくは二世、三世だと思われるし、もっと言えばアメリカという国自体が移民で構成された国なのだ(もちろんネイティブ・アメリカンはもともと住んでいたにせよ)。
移民から移民へ受け継がれる「アメリカの魂」の話ではあったが、うがった見方をすれば、「パックス・アメリカーナ」の委譲にまで敷衍できる話なのかもしれない。
モン族の寡黙で年老いたシャーマンと若く経験の浅いカソリックの神父。2人の対比も興味深かった。