「ユネスコ記念能」

国立能楽堂にて、「ユネスコ記念能」を鑑賞。昨年もこの会に寄らせてもらったのだが*1、あのときはちょうど「平家物語」からのつながりで能楽に関心を持っていた時期だったので、随分と意気込んで見に行った記憶がある。今年は割と自然体で。
演目は、狂言が「仏師」、能が「竹生島*2」。


「仏師」は、ある田舎者が仏像を名のある仏師に彫ってもらおうと都に上り、仏師を名乗る詐欺師につかまる。詐欺師は自ら仏像になりすまして高額の報酬を手に入れようとするが、田舎者はその仕上がりが気に食わず、あそこを直して欲しい、ここを直して欲しいとあれこれ注文をつけるうちに、詐欺に気が付く…という話。
仏像になりすました詐欺師が、注文に答えるべく様々なポーズをとるところがこの曲の妙。台詞については書き物で伝えることはできるけど、こうしたポージングというのはどうやって後世に伝えていくのだろう? ある程度の型はあっても、割と創意工夫が許されるところなのかもしれない。観客の「ウケ」を取るために、演者が興に入っていろいろ変な表情をして見せたりして、これはきっと演じる側も面白い曲だろうと思った。


竹生島」は、霊験あらたかな竹生島を詣でた帝の臣下が、漁師の翁と連れの女の乗った舟に便乗して島へ向かう。実はその翁は竜神、女は弁財天で、姿を現した両者は神威を見せつけて再び神の国へ帰っていく…という話。

竹に生まるる鶯(うぐいす)の 竹に生まるる鶯の 竹生島詣で急がん

この翁と女が乗ってきた舟の作り物がまた貧相な木の枠だけのもので、登場人物3名が揃ってこの「枠」の中に入っている姿など電車ごっこのようでもあるのだが(しかし能面を着けた状態で転ばずに跨いで入るのは至難のわざだと思う)、このあたりが歌舞伎とは違う能の「抽象性」をよく表していると感じた。
同じく「御殿」も布で覆われた小屋というかテントみたいなもので、そこに「女」が入ってしばらくすると美麗な衣装の「弁財天」に早(?)代わりして再登場してくるという演出。「あの中は真っ暗闇だろうに、着替えも大変だなあ」と思いながら見ていたのだが、よく考えたらもともと能面の内部はほぼ暗闇なのだ。
また翁から竜神への変身については、同じ人が演じているとは思えないくらいの豹変ぶりで、スタティックな芸能と思われがちな能ではあるが、その対極の非常に動的な部分も秘めているのだな。

春の夜の月に輝く少女(おとめ)の袂 返す返すもおもしろや

*1:2010年10月1日の日記参照

*2:国立能楽堂の観客席には、前の座席の背に現代語訳や英語訳が字幕で流れる装置がついていて、初心者にもありがたいのだが、英語では「Bamboo Growing Island」で「Goddess Ben Zai」と「Dragon God」が現れる…と表記されていて、笑った。