『西洋音楽史II―バロックの音楽』

西洋音楽史II―バロックの音楽 (NAXOS BOOKS DISCOVER)
音楽素人の私にもとっつきやすいバロック音楽の解説書を探していて見つけた本。音楽に革新をもたらした人物を軸に西洋音楽史をたどるシリーズの第2巻で、これは分かりやすかった。


印刷技術の発達に伴い、あちこちの地域で独自に発展していた音楽は、国境をまたいで国際的に交流を深めることになる。

 18世紀が始まると、印刷物が手に入りやすくなったのと、前の世代の音楽家たちの創造的才能のおかげもあり、作曲家はそれまでになかった広範な様式上の可能性を手にしていました。ドイツの作曲家は時刻の様式と同じくらいにフランスやイタリアの様式をよく知っていましたし、イタリアの作曲家はフーガの作曲法を学び、自らのパレットへさらに色を加えるまでになりました。互いを豊かにしてきたプロセスが完成したのです。J.S.バッハヘンデルはこの時代の輝かしい例となりました。2人は手に入るあらゆる新しい響きを吸収し、魔法のようにそれまでとは違う音楽を新たに生み出しました。まさに国際的音楽であり、当事と同じく、今でも影響力を持つものです。

 ヨーロッパで手に入るあらゆる種類の異なる音楽を吸収し、それを一貫した統一体にしてしまうバッハの能力により、彼はその後やって来るものほぼ全ての要となっています。彼の名と音楽は、若きメンデルスゾーンが《マタイ受難曲》を復活上演させるまでの、死後約百年間は一般人にとってなじみのないものだったかもしれません。しかし、ハイドンモーツァルトベートーヴェンは皆、この最も偉大な音楽家の技術的、感性的、精神的完成形を学び、尊敬したのです。


また、これまであまり意識したことはなかったが、「調」の発明というのも大きかったという。

 古代の旋法様式は、この時代に現れた長調、短調という体系に入れ替わりました。それまでは古代の旋法が音楽家を強く拘束しており、あらかじめ決められた音階の範囲で作曲せねばならず、あまり長い曲ともなると退屈なものになる恐れがありました(先に詳述した聴衆の興味の維持とはこのことです)。ある調から他の調への移行(転調)という新しい概念は、天の賜物のようでした。このおかげで作曲家はより大きな作品を書くことができるようになり、1つの音階(調)から他の音階へと移行し、そして戻り、通常は冒頭の主題を持ってきて、「戻ってきたぞ」ということを一種の目印のようにして示します。たとえていえば、丘を登って無限に平らな草原を永遠に歩き続ける代わりに、丘の反対側から下りるようなものです。このような考え方は今から思えば当たり前すぎると思われるかもしれませんが、ここまで発展するには何世紀もかかったのです。