『憚りながら』

憚(はばか)りながら
山口組の直参幹部として実力を認められていた、元・後藤組後藤忠政組長の自叙伝。静岡県富士宮での生い立ち、愚連隊時代、山口組直参昇格、竹中正久4代目の思い出、山一抗争、伊丹十三襲撃事件、孤高の民族派野村秋介との交友、企業社会への進出、バブル経済の裏側、政界との交流、武富士との攻防、山口組引退の真相…そしてヤクザ社会からの引退、仏門に入り「忠叡」という得度名を授かるに至った経緯等々を赤裸々に語り下ろしている。
まあ、いいところだけをいいように振り返っているんだろうし、後半の政治批判に至っては普通の年配者の説教話という感じで蛇足に感じたけれど、一般人では知りえない裏事情ぽろりと出てきたりすくるところがあって、なかなか興味深く読んだ。


この本の発行は2010年5月なんだけど、奇しくもマスコミの暴力を批判していたり、芸能界との交流について触れていたりして、タイムリーに思った。そういう意味でとくに面白かったのは、筆者が島田紳助氏を「小チンピラ」と批判しているくだり。番組で「カンボジアに学校を建てよう」という企画を感動話として流していたのをたまたま見たらしく、本当の善意というのは見せびらかすもんじゃないと一刀両断しているのが、何とも皮肉ではあった。


筆者が真の知己だと認める野村秋介氏のエピソードで、獄中で詠んだというこんな句が載っていて、妙に心に残った。

俺に是非を説くな 激しき雪が好き