『被差別部落の青春』

被差別部落の青春 (講談社文庫)
若い世代にとっての部落とは何なのか? これからどう変わっていくのか? 自らも部落出身の筆者が数多くのインタビューや取材を重ねて書き上げた労作。と言っても無理やりまとめたりするのではなく、それぞれのエピソードや意見をそのまま提示するスタイルに好感を持った。

これを読んでいると、2つの意味で「教育」の問題が大きかったのかなあと思った。
ひとつは学校における同和教育の問題。教師によって非常に熱心に取り組むのだが、熱心さゆえに部落出身の子を前に立たせて自らの出自をあえて語らせたりする。
もうひとつは、部落内における教育の問題。もともと貧しい地域だったこともあり、幼児教育なんて考え方がほとんどなかったところへ、行政に幼稚園や保育園を作らせたり自ら勉強を見てあげたりして努力する人たちの話も出ていた。部落出身者で教育者になる人が多いという話も書いてあったが、そこには教育の向上にかける情熱の表れもあるのだろう(もちろん公務員だからということもある)。
本のなかである女性が、ムラ(部落のことをさす)の子はみんなおかゆやうどんが常食だったので、ご飯に味噌汁という食事を大人になるまで知らなかったし、ムラの子どもたちは噛むことができないと語っていたが、こういうのも根底にあるのは教育と同じ問題かもしれない。


このほかにも、部落に住む在日韓国人の話や、アメリカから日本へ留学してきて部落を研究している黒人の話、そしていままさにタイムリーな食肉加工業界の実情など、これまであまり知らなかったけれど興味深い話が多い。


さまざまな人を取材した筆者によると、部落出身者の中でも世代により考え方が違ってきているという。安く暮らせるから部落から出ていくことなどまったく考えていないという若者がいる一方、実際に結婚差別や就職差別を受けたその親の世代は、だからこそ若い世代のあっけらかんとした考え方を心配する。同和教育なんてなくなればいいという人もいれば、同和教育があったからこそ差別がなくなってきたと強調する人もいる。
立場や背景が異なれば意見も十人十色なのは当たり前だが、そこがポイントなのだということが分かった…ような。