姫路の地元グルメ

急遽姫路へ出張へ行くことになった。JRでは何度も通過したことはあるけれど、実際に訪れるのは今回が初めてのこと。
街のシンボル姫路城(世界遺産)は大天守の保存修理工事に入っており、既に天守内見学不可となっていたが、7月頃からはその姿がいよいよカバーで覆われてしまうということだったので、その前に間近で見られて良かった。工事は断続的に平成27年まで続くらしい。
地元の方にいろいろ教わって、地元のいわゆるB級グルメをいくつか味わう。


まずは姫路駅に降り立ってすぐに出会える名物「駅そば」

ネーミングもぱっと見も、何の変哲もない立ち食いそばに思えるのだが、実は「日本蕎麦の出汁に中華麺」という奇天烈な組み合わせの麺なのだ。ちなみに写真は新幹線改札口内にある「まねき食堂」の「天ぷらえきそば」に生卵トッピング。
食べてみるとこれが意外にマッチしていて、関西風の薄味のお出汁には、むしろ下手に風味のある蕎麦よりも無個性な中華麺のほうが合うのではないか、とさえ思えてくる(関西の立ち食い蕎麦の不味さ=出汁と麺の不一致には心底辟易していたクチなので)。
駅そばの発祥については同まねき食堂のこちらのページに詳しいので参照のこと。まねき食堂さんは昭和24年から「駅そば」というネーミングでこの麺を販売しており、現在ではすっかり姫路人のソウルフードとして定着しているようだ。


そして、いまや姫路発のB級グルメとしてかなりの押出しを見せているのが姫路おでん
と言っても姫路だけで流通する何か特別な具があるわけではなくて、食べ方にこそ最大の特徴がある。それはなんと、「おでんを生姜醤油につける」という食べ方なのだ。
そもそもの火付け役となったのは姫路出身の松浦亜弥だそうで、以下の朝日新聞(関西版)の記事がその経緯と姫路おでんの特徴を簡潔にまとめていて分かりやすい。

 姫路のおでんが注目されるきっかけの一つは、2006年、播磨うまいもん会の事務局長前川裕司さん(54)に届いた一本のメールだった。「ショウガじょうゆをかけて食べるのは、ほかの地方にはない風習では?」
 インターネットの掲示板に載せると、「初耳」「姫路の実家はその食べ方」。反響が広がり、前川さんらは「姫路おでん」と命名。おでんを食べさせる店を紹介したガイドマップを作り、県外のイベントでPRを始めた。もともと昭和初期に甘辛い関東煮の味を調整するためにかけたのが起源とされ、ショウガとしょうゆの産地が近くにあったことも食習慣につながったといわれる。分布は東は加古川、西は相生と限定的だ。
(中略)
松浦亜弥のコメント)
 生まれ育った姫路のコンビニのおでんコーナーには、ショウガじょうゆが置いてあったんですよ。好きな具を自分で器に取って最後にかけるスタイル。自宅のおでんもショウガじょうゆがセット。それが普通の食べ方なんだと思っていました。
 14歳で上京して、東京のコンビニでおでんを買ったときにショウガじょうゆが見あたらないので、「かけるものは?」と店員さんに聞いたんです。すると「辛子ですか」と。事務所や番組のスタッフに聞いてもショウガじょうゆはかけないと言うので、姫路にしかないんだって知ったんです。
asahi.com(朝日新聞社):【姫路おでん】ショウガないと しょうがないねん - 関西

瀬戸内の魚を原材料にした練り物が特産品で、もともとおでんを食べる機会が他県民より多いと思われる。さらに姫路周辺には醤油の産地や生姜の産地があるので、それら全ての要素が渾然一体となった…と考えれば何となく分かったような気になるが、それにしても一体どんな味なのか?
こればかりは食べてみないと分からない…ということで、古くから駅前で名を馳せているおでん屋の一つ「能古(のこ)」というお店に行ってみた。
 
写真では分かりにくいが、左の画像の手前に見えるのがおろし生姜入りの醤油出汁。これにおでんをつけて食べるというわけ。
食べてみると、何と言うか全ての具が茄子の煮浸し風というか、そうめんというか、そんな感じの味になってしまう。これはこれでさっぱりしているとも言えるし、おでんなのにどこかしら「夏を感じさせる」とも言えるのだが…。
結論から言うと、「おでん専門店で食べるのなら、わざわざ生姜醤油につける必要はない!」という感想。お店の人が苦心して引いた(それこそ関西風の上品な)出汁の味を台無しにしてまで、生姜風味を求める必要はとうてい感じないのだ。何と言うか、それって料亭で出てきた料理にマヨネーズをつけるような行為なのではないだろうか*1
実際、「姫路おでん」という名前が浸透して、「観光客から必ず生姜醤油を要求されるようになって困る」とか、「うちは最初から『生姜醤油は無い』と断っている」とかいう声も出ているそうだ。
百歩譲って、コンビニのおでんや家庭でおかんがいい加減に作るおでん辺りには、丁度良いのかもしれない。

*1:美味しんぼ』初期の、フランス料理店で鴨肉をわさび醤油につけて食べる海原雄山のエピソード参照。