『わたしの良寛』
新潟の出雲崎といえば、最近ではジェロの「海雪」で「♪あなた追って出雲崎〜」と歌われていることで有名(?)だが、古くは良寛の出身地として有名な土地だ。
せっかく新潟に住んでいるので、ゆかりの人物について学ぼうと思い立ち、とりあえず良寛についての本を図書館で探してみた。良寛は膨大な量の書画を残した流浪の禅僧だが、その生涯がわかりやすく紹介されているのと、やはり書の専門家の目から見てどうなのかが興味あったのとで、榊莫山先生の『わたしの良寛』という本を借りた。
良寛の生涯と漢詩・和歌・俳句のごく一部をさらりと紹介しつつ、莫山先生が良寛ゆかりの地を取材して書いた(描いた)書画を通してつづる、書家から書家へのラブレター調の本。奈良で17代続く旧家に生まれながら書の世界に身を投じた筆者は、出雲崎の名主の家に生まれながら名利を捨てて禅に走った良寛と自分自身を、どこか重ね合わせているようだ。行間から共感がにじみ出ている。
良寛は漢詩をかいたり、和歌をかくときは、とても読みづらい草書体とか平安がなを多用している。
にもかかわらず、般若心経をかくときの、気分はぜんぜんちがった。とてもユニークな楷書である。楷書の原風景は、中国の六朝のころの力感あふれたものと、唐朝初期の斉正典雅なものがある。
ところが、良寛の写経にあらわれる書風の、原風景はつかみにくい。文字の骨格はたしかで、表情は飄飄として風すきがよい。ひとくちで言えば、ユニークな楷書といってよい。
それがいまでも、人気抜群。良寛は、写経するとき、よく字をとばした。脱字というやつである。良寛のかいた般若心経は、百余り残っているそうだが、どれにも脱字があるようで、それがかえって魅力となる。
…こういった手(文字)についての解説のくだりは、筆者ならでは。
紹介されていた中で、心に残った詩歌をいくつか。
さけさけと 花にあるじをまかせられ けふもさけさけ あすもさけさけ
「酒」と「咲け」をかけた軽妙な歌。良寛は酒がとても好きだったようだ。
かたみとて なにのこすらむ 春は花 夏ほととぎす 秋はもみじ葉
自分が死んでこの世に残すものなど何もない…という潔さ。自然に沿った生き方にゆらぎがない。
うらを見せ おもてを見せて 散るもみじ
散るさくら のこるさくらも 散るさくら
両句とも良寛の辞世と言われているが、詳細は不明。
…それにしても↓この写真すごいな〜、「良寛像に見入る筆者」。
“鬼気迫る”とはこのことか。