『趣味は読書。』

趣味は読書。
世の中には何十万部とか何百万部売れる、いわゆる「ベストセラー」と呼ばれる本があるわけですが、自分を読書人だと思っている人ほど、実際にそれらを読んではいないのではないでしょうか。
私自身は、一昔前に流行った本をブックオフの105円コーナーあたりで買って冷やかしで読むのが好きな部類ですが、まあ言ってみれば「内容を確認した上でブームに乗って読んでいた人たちを冷やかしたい」「自分はそんなのに飛びつかないという、裏返しの自己確認をしたい」がために、面白がって読んでいるわけです。我ながら嫌味だなぁ。
でもそういう駄文読み(と言い切りますが)を重ねる中で、自分の知らなかった世界が開けてくることもあり、思わぬ功徳が無くは無いのです。二谷友里恵の『愛される理由』は、私の読書体験の中でも五指に入る、それはそれはスリリングな本でした*1


で、本書。
評論家の斎藤美奈子さんが、1999年7月*2から2002年10月まで、平凡社の某誌上で連載していた、「お忙しいみなさまにかわって、私がお読みいたしましょう。そして内容をご報告いたしましょう。いわば『読書代行業』」というスタンスのベストセラー専門の書評群を、再編集したものです。
取り上げられている本は、五木寛之大河の一滴』、大野晋『日本語練習帳』に始まり、『人間まるわかりの動物占い』、『銀座ママが教える「できる男」「できない男」の見分け方』、叶恭子蜜の味』、飯島愛プラトニック・セックス』、矢沢永吉『アー・ユー・ハッピー?』、『買ってはいけない』、『話を聞かない男、地図が読めない女』、『金持ち父さん 貧乏父さん』、村上春樹海辺のカフカ』、乙武洋匡五体不満足』、『チーズはどこへ消えた?』、『世界がもし100人の村だったら』…と、「あったあった」と今や昔懐かしい書名が全43冊。


斎藤さん独自の切り口で、時には厳しく時には優しく切り捨てる各個の書評そのものも面白かったのですが、それよりも断然興味深かったのは冒頭の書き下ろしエッセイ「本、ないしは読書する人について」。
あれだけ売れている本でも、自分の身近には読んだ人がいない…という不思議から説き起こし、現代の日本で本を読んでいる人はどんな人種なのかを論考しています。
いわく、ある特定のジャンルの本しか読まない「偏食型の読者」、本であればなんでも読む「読書原理主義者」、新刊情報にやたら詳しく本におぼれている「読書依存症の読者」(出版業界の人も含む)、そしてこれらのどれにも該当しない、読書人口の大部分を占める「善良な読者」。ベストセラーの読者とは、この「善良な読者」だろうと斎藤さんは推測しています。


こうした読書人の分類加えて、さらに目からウロコの気分だったのが、以下の記述。

 単純な事実を確認しておこう。本ていうのは、私たちがイメージするより、ずーーーーーーーーーっと購買層の少ないマイナーな商品だ、ということである。
 一冊の本の発行部数は、多くて初版が五〇〇〇部。いまは二〇〇〇〜三〇〇〇部の本も珍しくない。そんな小ロットの商品だから、一万部も売れればシングルヒット、一〇万部でホームラン、一〇〇万部売れたら一回から九回まで連続満塁ホームランが出たくらいの大記録である。
 けれども、これがテレビの視聴率だったらどうだろう。(株)ビデオリサーチの算定によると、視聴率一パーセントは、関東地区の場合、約三九万人に相当する。てことは、出版会を揺るがす大事件に等しい一〇〇万部も、視聴率でいえば三パーセント未満。番組の存続自体が危ぶまれるような数字である。テレビで高視聴率番組と呼べるのは、まあ二〇パーセント台。一〇〇万ぽっちじゃ、お話にならないのである。

なるほど、よく考えたら(考えなくても)そのとおり。
っていうかそもそも、世の中の多くの人は「本」を読まないのです。

…もし日本が一〇〇人の村だったら、四〇人はまったく本を読まず、二〇人は読んでも月に一冊以下だ。しかも、ここには図書館で本を借りる人も、一冊の本を何人もで回し読みしている人も含まれている。したがって、「読む」ではなく「買う」にシフトして「毎月一冊以上の本を買う人」「定期的に書店に行く人」「新刊書に関心のある人」などとなったらもっと少人数にちがいなく、純粋な趣味(余暇活動じゃ!*3)として本に一定のお金と時間を割く人はせいぜい一〇〇人の村に四〜五人、数にして五〇〇〜六〇〇万人がいいところかと思う。

業界内にいるとうっかり忘れてしまいがちだけど、世の中の大部分の人はその業界にそもそも関心がない…。これは何も読書に限ったことではなくて、映画鑑賞でもスポーツでも音楽鑑賞でもギャンブルでも、とにかくあらゆる趣味について同じようなことが言えるでしょう。
改めて思ったのは、ある業界内の常識で世の中全般を語ろうとしても、チグハグもしくはトンチンカンになるだけだなぁ…ということでした。なんか本書の趣旨とは違うところにたどり着きましたが、ま、いっか。

*1:2006年2月10日の日記参照

*2:ノストラダムスの大予言の月ですね。

*3:引用注・(財)自由時間デザイン協会がまとめている『レジャー白書』の「余暇」の過ごし方のアンケート調査の解答欄に、そもそも「読書」という項目がないことについて、憤っています。