『スクールウォーズ』

スクール・ウォーズ―落ちこぼれ軍団の奇跡 (光文社文庫)
某大学の某アメフト部員に暴行疑惑…という報道が流れた。それで、というわけではないのだが、ブクオフ100円コーナーで買ってあったこの本を読んでみることにした。


本書は、実在の京都市伏見工業高校の物語。大映ドラマ「スクールウォーズ 泣き虫先生の7年戦争」は、本書をモデルにした「川浜高校」が舞台の、(一応)フィクション。ただし一部の名前が変わっていたり、エピソードが追加・変更されているだけで、基本的には本書と同じ内容だったと思う。

昭和56年1月7日、第60回全国高校ラグビー選手権大会決勝戦。高校ラグビー史上に残る名勝負を制し高校日本一となった伏見工業高校は、そのわずか7年前までは、京都市内の高校ラグビー部で最低ランクの弱小校だった。
喫煙・飲酒は当たり前の、不良少年たちの吹き溜まりだった伏見工業のラグビー部が生まれ変わったのは、元全日本代表の山口良治が監督になってからだった。

ドラマの主題歌のバックで、「本屋の雑誌を堂々と手提げバッグに入れる不良」とか「校庭に単車を乗り入れて暴れる不良」とか「女子生徒のスカートを堂々とめくる不良」なんて映像が流れていたが、本書にはそこまでの行状は書かれていない。せいぜいが「万引き」だの「喫煙」「飲酒」だの、その程度のことしか書いてなかった。
他の先生が授業をやっている教室の前を通ったとき、授業中にもかかわらず麻雀をやっている生徒がいたのを見かねて、山口先生が怒鳴り込んだ場面。

「お前ら、何をやっとるんじゃ」
 ほかの教師の授業中にいきなり飛びこむ無礼は、当然問題だ。だが、許してはおけなかった。授業中に麻雀など言語道断だ。
「見たら分かるなどとはほざくなよ。立て!」
 四人が不貞腐れて立ち上がった。
「サングラスもとらんかい」
 良治が手をのばした。その手をサングラスの生徒が払った。なめきった手つきだった。
 良治の平手打ちが飛んだ。

…というか、山口先生自身が、生徒を落ち着かせるために、教官室でウイスキー入りの紅茶を飲ませたりしているのだが、それも如何なものか(笑)。
そんな山口良治監督の指導方法は、こんなものだったとか。

 良治はラグビー技術を口では教えない。
 技術は体で覚えるものだと思っている。肉体を苛めてさいなんで身につくものだ。教えてしまえば器用だがひ弱い選手ができる。ただ迷ったときは正しい方向へと導く力はもっていた。


ちょっと驚いたのは、「イソップ」のモデルも実在していたこと。本書では「フーロー*1」というあだ名で呼ばれたと書いてあるその少年は、先天性の小人症で、伏見工ラグビー部に入部したときには身長135センチ、体重29キロだったとか。
どう考えてもラグビーに不向きな体格だったが、地獄のしごきに一生懸命ついていくその姿は、部員たちに暖かく迎えられた。
しかし、脳下垂体にできた腫瘍が原因で、彼は入部からたった5ヶ月で亡くなってしまったそうだ。
伏見工業高校ラグビー部のジャージをデザインしたのが彼である、というのも、ドラマの「イソップ」のエピソードと同じだった。

*1:フランスの代表だった小柄な名ハーフ、ジャック・フールー(当時はフーローと呼んでいた)にちなんで付けられたとか。ちなみにフールー氏は、昨年12月に逝去されております。