『六本木心中』

笹沢左保・著。作者は推理小説の出身で、のちにジャンルを超えて人気作品を多く残した方。有名なのは、この『六本木心中』のほかに『木枯らし門次郎』シリーズの原作など。
…もっとも『六本木心中』のほうは、アン・ルイスが歌った同名の歌*1のタイトルのほうが一人歩きしているのかも。
作者の名前を見たときに、「“左を保つ”なんて…革命的なペンネームだな」と思ったものだが、巻末の解説によると、奥様のお名前「佐保子」からとったものらしい。それはそれでどうかと思うが。


舞台は今から40年前、1960年代前半の六本木。
六本木が、戦後進駐軍を相手にした洒落たナイトクラブの並ぶ一角だった時期から、放送業界の深夜族の憩いの場となり、やがて金と暇のあり余る若者たちを主役とした「六本木族*2という流行が起こっていた時代。その辺の変遷を描写した、冒頭の部分が興味深かった。
その頃の六本木で出会った21歳の青年と16歳の少女の、まあ言ってみれば悲恋の物語なわけだが、割とカラッとしているのが六本木ふう? 作風なのかもしれないが、一種のペシミズムを感じた。


現在の六本木はといえば、オリンピック選手がクラブのVIPルームでご乱心あそばされて捕まったり、現職議員が路上でいきなり女性の胸をわしづかみして逮捕されるような町になってしまった。。。それもまた虚無的?

*1:関係ないけど、この歌の歌詞「長い睫毛がヒワイねあなた」で、初めて「卑猥」という単語を知った。

*2:以下のサイトに、「六本木族」のアイコン的存在だった加賀まりこさんが、当時を振り返ったインタビューがあります。 →http://www.ractive-roppongi.com/special/01_vol04.html