尾崎放哉と種田山頭火
急に思い立って、図書館で放哉と山頭火の生涯について調べてきました。
『尾崎放哉 ひとりを生きる』石寒太・著ISBN:4894481960
『俳人山頭火の生涯』大山澄太・著ISBN:4841505342
二人とも五七五の定型や季語の有無にとらわれない「自由律俳句」をものし、酒で失敗を繰り返し、晩年は妻や子供と別れて禅寺に孤独に暮らしたところが共通項。創作活動を行っていた時期も、年齢もほぼ重なります。
山頭火って言ってもラーメン屋のことしか知らない人も、「分け入っても分け入っても青い山」とか「うしろすがたのしぐれてゆくか」といった句は聞いたことがあるのでは? 放哉といえば何と言っても「咳をしても一人」の句が有名。
人間としては種田山頭火のほうが圧倒的に面白そうですね。彼の場合はいい酒。西日本を中心に素寒貧の流浪をしていても、その句や日記からは結構あっけらかんとした人生観が見て取れます。酒と温泉と豆腐を何よりも愛し、何度も「酒は二合まで」と誓ってるのに、ちょっと金ができるとあっさり破ったり(笑)。その最期にしても、酒の飲みすぎで倒れてたら、村人が「またかよ」って寝かせておいたら死んでいたというのですから。
対して尾崎放哉は一緒に酒を飲みたくないタイプ。彼の場合は悪い酒で、酔っ払うと「俺は一高東大出身、世が世なら…」みたいなことを喚き散らしたとか。サイアクですね。東大を出て就職した生命保険会社でも、昼近くに酒を飲んで出勤、夕方には帰ってしまう重役ぶり。数々の仕事を世話してもらいながら全部酒で失敗、最期は肺結核で死んでしまいます。でもその句は研ぎ澄まされた中にペーソスがあって、非常に好きです。
気に入った山頭火の句
- 踏みわける萩よすすきよ
- 笠にとんぼをとまらせてあるく
- まっすぐな道でさみしい
- しぐるるや人のなさけに涙ぐむ
- 寝たいだけ寝たからだ湯に伸ばす
- ほつと月がある東京に来てゐる
- ちんぽこもおそそも湧いてあふれる湯
- 烏啼いてわたしも一人*1
気に入った放哉の句
- あたたかき炬燵を出る別れ哉
- なぎさふりかへる我が足跡も無く
- にくい顔を思ひ出し石ころをける
- 茄子もいできてぎしぎしと洗ふ
- 片目の人に見つめられていた
- 犬よちぎれる程尾をふつてくれる
- あけがたとろりとした時の夢であつたよ
- 蛍光らない堅くなつてゐる
- なんと丸い月が出たよ窓
- 渚白い足出し
*1:放哉の「烏がだまつてとんで行つた」や「咳をしても一人」へのアンサーソングと言われています