「紳士の黙約」ドン・ウィンズロウ

先週末の豪雨で、伊豆山の地滑りには衝撃を受けた。

追いかけ報道を見ていると、上流部分でかつて宅地開発がとん挫した経緯があり、その後始末の盛り土処理が問題だったのではないか、とのこと。

 

ちょうどそんな折に読んでいたのが、本書「紳士の黙約」だった。

 

※以下、ネタバレを含みます。

本書の舞台となるのはアメリカ西海岸のサンディエゴ。かつてサーファーやアーティストの聖地だった平和な街にも、宅地開発の波が押し寄せ、都市化していくに伴って貧富の差、人種差別、麻薬、暴力などのさまざまな「現代的」問題が徐々に現れつつある。

それはまさに「波」のようでもあり、また本書の隠れたテーマでもある「地殻変動」のようでもあって、目には見えなくても海の彼方や地下深くで、大きなうねりは静かに生まれ、育ち、そして突然牙をむいて襲い掛かってくる。

その結果、人の命は簡単に奪われるし、それを隠蔽しようとする無理な負荷が、新たな犠牲者を積み重ねていく。

 

性善説性悪説といった考え方は、それ自体はあまり意味がないと思いたい。

だが、実際に利己的が過ぎる人間は、いつだって平気で他人を傷つける。よしんば直接手を下すことはなくとも、自分の知らない誰か、将来迷惑をこうむる誰かには、平気で不幸のボールをパスできる。それはいつか、よけきれない大きな波や、逃げられない地滑りとなって誰かに襲い掛かる。

大事なのはその想像力と、ちょっとの思いやりなのかな。大きな波に立ち向かうには、私には力も勇気もなさすぎるから。