『忍びと忍術』

忍びと忍術 (江戸時代選書)
ここ最近私の中で続いている忍者ブーム。学術的なものも読んでみようということで、図書館から本書を借りてきた。


いわゆる「忍者」は飛鳥時代にまで遡れるという説*1もあるそうだが、一般的には室町末期からの戦国時代に形成されていったものが、現在で「忍者」として伝わっているものの始まりなのだろう。
各地の戦国大名により特殊な間者集団が育成されたうち、とくに鈴鹿山岳地帯に発展した独特の山岳兵法、山岳武術が「甲賀」「伊賀」と呼ばれるエリアごとに整備され、本能寺の変後に家康の都落ちを助けた伊賀、信長と組んで決起して以降助けを受けていた甲賀がとくに徳川家に重宝されるようになる。功を認められ、後に江戸城の表門を甲賀組が、裏門(半蔵門…服部半蔵に由来)を伊賀組が守るようになるのだが、次第に官僚化・世襲化していった伊賀組に対し、親衛隊に徹した甲賀組…という変遷も面白く思った。


そのほか、『万川集海』や『正忍記』などの忍術秘伝書に書かれた、実践的な「忍術」の数々もとても興味深かった。「忍び文字」「合言葉」「忍び歌」…。
私が子供だった頃(80年代)にはすでに、一部マニアには当たり前の知識として『万川集海』や『正忍記』といった忍術秘伝書の名前が流布していたが、ああいうのがポピュラーになったのは、まさに60年代にいくつかの忍者研究書が上梓されてからだったのかもしれないと、今にして思う。
年代順に整理してみたわけではないが、忍術研究の高まりと、一連の白土作品の成立、それから忍者ブームの勃興…という3つの流れの関係性に、興味を覚えた。
あともう一つ挙げれば、忍術秘伝書が世に出てきた時期と、『東日流外三郡史』などいわゆる偽書ブームの時期、あとさらに強引に敷衍するならUFOやツチノコなどUMAブーム、この辺に通底する何か。興味深い。

忍はすなわち刃の心

つまるところ忍術とは、己の心を殺す技術なのである。

*1:聖徳太子が「大伴細人」なる人物を「志能備(しのび)」として使っていた…という伝説があるらしい。