「レスラー」

レスラー スペシャル・エディション [DVD]

レスラー スペシャル・エディション [DVD]

プロレスという虚構の世界の裏側が赤裸々に描かれているという意味において、結構衝撃的な内容だった。悪役もベビーフェイス(善玉)もない、リングを降りたレスラーたちの世界は、当たり前のことだが一人ひとりそれぞれに悩みや問題を抱えた生身の人間たちの苦界だった。
試合前の打合せ(「首はお前たちが攻めるのか」「OK、じらすんだな」)や、ホームセンターでの凶器の買出しなどを見るにつけ、コミカルな見かけの奥にだんだんと悲哀すら感じられてくる。
その極みが、「もうレスラーとしてリングに上がることは許されない」と医者に宣告されて後、主人公のランディがスーパーの惣菜売り場で働く場面だろう。本名を明かしたくないランディは「ロビン」の名札を付けて働くが、かつてマット上で受けた大歓声の幻聴の向こうから聞こえてくる現実の客の声は、「おすすめのスモークハムは?」という老婦人の声。
離れ離れに暮らす娘の信用も失い、惣菜売り場の仕事も捨て、全てを失ったランディが向かったのは、やはりリングの上だった。
ラストシーン、「ラム・ジャム! ラム・ジャム!」と必殺技を連呼する観客の前で、痛む心臓を押さえながらトップロープに登ったランディ。そのダイブした先にあったのは、栄光の勝利だったのか、場末のみすぼらしい会場での死だったのか、それとも…?