『ヤバい経済学 悪ガキ教授が世の裏側を探検する』

ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する
ここ数日、大相撲の八百長問題で世間は随分と喧しいが、アメリカ人経済学者スティーヴン・レヴィットとライターのスティーヴン・ダブナーの共著である本書(米で2005年、日本語訳でも2006年出版)において、既に大相撲の八百長が数学的に解き明かされている…と聞いて、今さらながら図書館で借りてきて読んでみた。
その論をかいつまんで説明すると、10年以上にわたる幕内の取り組みの勝敗を洗った結果、7勝7敗で千秋楽を迎えた力士が、既に勝ち越しを決めている力士と当たった場合、勝つ(8勝目をあげ勝ち越しとなる)確率が、それ以外の日に同じ組み合わせで当たったときに勝つ確率に比べ、異常に高い…というもの。つまり統計学上は、そこに明らかに何らかの意図、すなわち「星の貸し借り」が行われているように見えると結論付けている。
その背景として筆者は、幕内と幕下とでの力士の待遇のあまりの落差を挙げている。いわく、「スポーツと八百長のつながりは間違いなく深い。はっきりした結果(たとえば勝負)に基づくインセンティブが与えられていると、インセンティブがあいまいな場合よりも八百長が起きやすい」というわけだ。


あと面白いと思ったネタは、中絶禁止政策をとって体制を覆されたルーマニアチャウシェスク政権と、中絶を認めて犯罪発生率が下がったアメリカの対比の話。あらゆる犯罪防止政策よりも、中絶こそが犯罪発生率を下げたという説(筆者も断っているが、別に優生学的な話ではない)は、目からウロコである。
それから「家の本棚の本の数と子供の学校の成績には相関関係がある」という話も興味を引いた。本書でさんざん書かれている「相関と因果は必ずしも同じではない」という観点で考えると、これは本が多いから成績が良くなる…という単純な話ではなく、「本は本当は、知恵をくれるものじゃなくて知恵を映すものなのだ」ということになる。つまり、本が多い家の両親はもともと勉学に興味関心があるからその子供も成績が良くなる確率が高いのであって、全家庭に本を100冊プレゼントしてみても全員の成績が上がるわけではないのだ。


ことほど左様に、筆者たちは「インセンティブは現代の日常の礎」であり、さらにインセンティブには「経済的、社会的、そして道徳的」の3つの味付けがあるという視点で、現代社会の様々な側面に独自の解釈を加えていく。
やや恣意的に思えるところもあり、読者に全ての生データが提示されているわけではないので、その点は慎重に読む必要があると思うが、「通念はだいたい間違っている」とズバズバ切り捨てていくところは実に痛快である。