『ミスター・ジャパンカップと呼ばれた男 異端の挑戦』

ミスター・ジャパンカップと呼ばれた男―異端の挑戦
中央競馬には外国の有力馬を招待して国内のトップホースと戦わせる「ジャパンカップ」というレースがあり、毎年11月の終わりに東京競馬場で行われている。この秋で節目の30回目を数える。
段階を追って外国馬の出走制限も緩和され、今年からはいよいよJRAの全ての重賞競走に外国馬が出走可能となったわけだが、もはや外国馬が日本のレースに出ることも不思議ではなくなった今日において、その「開国」の先鞭をつけた第一回のジャパンカップ実施がどれだけの苦労を伴ったかは、なかなか想像しがたいものがある。


本書は、四面楚歌とも言える状況の中で、暗中模索しながらこのジャパンカップを立ち上げた日本中央競馬会の職員・北原義孝氏(後年JRA副理事長にまで昇りつめている)にスポットライトを当てた、ノンフィクション作品である。国内からは強い反発を受け、海外の競馬関係者からはなかなか理解を示してもらえない。それでも「欧米の馬との力量差を目の前で見せつけてもらうことこそが、強い馬作りのためのショック療法となる」という確固たる信念を持っていた北原は、自ら旗振り役となって数々の問題を克服していった。そうして行われた第1回ジャパンカップでは、アメリカでGI未勝利の馬が圧勝し、北原の目論見どおり日本のホースマンたちに衝撃を与えたのだった。
…というふうに書くと相当マニアックな本のように思えるが、中身は「プロジェクトX」ふうの体裁で競馬の門外漢にも比較的分かりやすく書かれている。いや、そうだとしても誰を読者として想定しているのか、不思議な感はぬぐえないのだが…。


本書を読んで、昔は風変わりな経歴や並々ならぬバイタリティを持った人が、競馬の裏方で働いていたのだなあ…と驚かされたものの、当時あって現在ない最も大きなものとは、結局のところ「資金力」なのではないか、とも思った。