『田園交響楽』

田園交響楽 (新潮文庫)
世の中には「古本屋の100円コーナーでよく見かけるがそれ以外ではあまり見かけない」というタイプの小説がある。本書もその一冊。他には『若きウェルテルの悩み』とか。
そもそもアンドレ・ジッドという人自体「『狭き門』の人ね」という程度の認識だったのだが、文庫にして100ページにも満たない薄さと、あとタイトルに引かれて読んでみた。というのは、私の住んでいる新潟市のキャッチフレーズが「田園交響都市」だから(このキャッチもどうかと思うけど)。
身寄りのない盲目の美少女を、最初はある種の義務感から養うことに決めた牧師だが、次第に道ならぬ恋に落ちていく…という話。
そこに、カソリックに傾倒してしまう息子との葛藤(一部嫉妬)が重なり、プロテスタンティズムカソリックの間で、もっと言えばキリスト教そのものへの根源的問いかけに揺れ動いたジッド自身の姿が投影されているようだ。…というかその辺を加味して読まなければ、単に養女(幼女)に恋して道を誤る『痴人の愛』的オッサンの話になってしまう。『痴人の愛』と違うのは、途中で視力を回復した少女が自殺してしまうところ。
少女が眼を開いたとき目の当たりにしたのは、想像していたよりももっと美しい田園風景と、そこに住む人間の悲しい表情だった。

「もし盲目(めしい)なりせば、罪なかりしならん」 ──聖書の一節