『ドリトル先生アフリカゆき』

ドリトル先生アフリカゆき (岩波少年文庫 (021))
先日図書館で少年少女向けの棚を眺めていて、ふと手に取って懐かしく思いそのまま借りてきた。「ドリトル先生」シリーズの第1弾。
夢中で読んだ子供の頃は当然意識していなかったが、日本語訳がなんと井伏鱒二で、発行の仕掛人が児童文学の大家・石井桃子女史だったことを知り、びっくりした次第。
発行に至るまでの経緯が書かれた「あとがき」によれば、昭和十五年の春(!)に石井桃子井伏鱒二に原作を勧め、いつか日本の子供向けに翻訳しようという話で意気投合したとか。ところが折しも日本は大陸支配を進め大東亜戦争へまっしぐらの時期、また井伏自身も忙しく、翻訳の仕事がなかなか進まなかったところ、石井が下訳を付けて井伏に渡し、それを井伏が旅行先に持ち込んで書き上げたのが、この『ドリトル先生アフリカゆき』だったとか。
出版後の好評を受けシリーズの翻訳連載が始まったものの、戦局はどんどん悪化し井伏鱒二も徴用されたため連載は中断。戦後になってようやく翻訳が再開され、シリーズ最終である第12巻『ドリトル先生の楽しい家』日本語版が発行されたときには、原作者のヒュー・ロフティングが第1作を発表してから、実に60年近い歳月が流れていたそうだ!


ドリトル先生」は原作では「Dr. Dolittle」…「Do Little」つまり「なまけものの医者、働かない医者」といった意味になるのだが、これを「ドリトル」と訳した井伏の筆力について、石井桃子は次のように書いている。

 この物語の主人公は、ドゥーリトル先生というお医者さんで、もしむりに日本流に訳したら「やぶ先生」というような名まえになるのかもしれません。けれども、井伏さんがつけてくださった「ドリトル先生」という名まえは、なんだか、このあたたかい心のお医者さんにぴったりで、私たちは、もう「ドリトル」以外に、この先生の名を考えることができないくらいです。

なろほどね。