『料理の仕事がしたい』

料理の仕事がしたい (岩波ジュニア新書)
先日図書館の子供図書コーナーで見つけて借りてきたもの。いや、別に今すぐ料理業界に転職したい…というわけではないのだけれど、夢は夢として興味がなくはないのだ。
この本は辻調理師専門学校の校長・辻芳樹さんが編者となり、シェフ、パティシエ、ソムリエ、バリスタ、割烹旅館オーナー、レストランオーナーなどなど、料理業界の(主に辻グループに関係の深い)人たち16名が、この業界に入ったきっかけや苦労話、後輩へのアドバイスなどを語る体裁となっている。
(もともとこの本自体が「岩波ジュニア新書」ということで、中高生を対象に作られているのだ)
つらつらと読んでみて、今この業界でひとかどの地位を成している執筆者陣の共通点として、やはり「料理が好き」というのは大前提としてあるわけだが、その上に皆さん一様に研究熱心で、さらにもう一つ、「○○歳までにここまでやって、××歳までにこれを実現する」という明確なビジョンを持っているのだ。
漠然と夢を持っているだけではなくて、その実現へのロードマップを持ってクリアしていかないといけないのだと、読者層たる中高生たちに説いているわけだが、すでに中年の域に達した私にも耳が痛かった。


中の一人、料理研究家の久保香菜子さんの言葉。

 料理は、合理的で、科学的です。ところが、その二つだけでは完成せず、情緒的なものが加わって、はじめて完成する世界です。(中略)
 また、「自分の内にないものはできない」ところも、面白さですね。(中略)
 つまり、ことほどさように、料理には「自分」が出るわけです。同じような作り方をしても、私だけの牛肉とゴボウのご飯ができあがる。自分をごまかせないので、自分を豊かにしていくしか、料理の世界を広げる方法はないわけですね。


もう一人、レストランディレクターの渋谷康弘氏の言葉。

 私は自分の経験を通して、高校生の皆さんにひとつだけアドバイスしたいことがあります。もし自分のやりたい仕事が見つかったら、一生懸命に働いてほしいということ。アルバイトや派遣という立場での仕事は、一生懸命には値しない。組織という一つの傘の下に入って、やすやすと辞められない環境に身をおき、そこで基礎を積むことをおすすめします。しかも、その環境に最低三年は身をおく覚悟でいてください。三年といっても、実際に働いている日数はせいぜい七〇〇日余り。何かひとつのことを学ぶとしたら、同じことをたった七〇〇回しかできないわけです。そう考えるとあっというまではありませんか。その短い期間に自分の将来のために、何をどう身につけるかが鍵です。

この「レストランディレクター」という仕事、非常に興味深かった。あるコンセプトに基づいて店を開店するにあたり、どのような客層をターゲットにして、どれくらいの価格帯でメニューを作り、どんなワインを用意し、どんなカトラリーで饗し、どんなサービスをどれくらいの人件費をかけて提供するか…といった諸々を統括し、経営していく仕事なのだそうだ。