『孤独のグルメ』

孤独のグルメ (扶桑社文庫)
近所の本屋のオススメコーナーにあったのを手にとってみて、面白くてそのまま買って帰って一気に読んだ。
女優の卵とパリでデートしたり、極度の大阪嫌いだったり、経歴が一切不明の謎の輸入雑貨商の中年男性が主人公の、グルメマンガ。しかしグルメと言っても完全にB級のそれで、しかも店に入るのは必ず一人、酒は一切飲まない。昼飯時に「それにしてもお腹が空いた…」とかぼやきながら商店街を行きつ戻りつし何を食うかひたすら迷う、そしてようやく入った店で思わぬ食事との出会いをする。ただそれだけのマンガ。
しかしその食いっぷりが見事なのである。明らかに注文しすぎなのだが、とにかく全部を平らげて、店を出るときに「さすがに食いすぎた」と後悔しながら煙草に火をつける。なんとも男らしいではないか。くわえ煙草もしくは爪楊枝でのれんを払い上げて店を出てくるのが、「お一人様」本来のあるべき姿なのだと、このマンガを読んでいると気付かされる。


それとこのマンガは、毎回読みきり形式で、ある一つの町の一つの飲食店を舞台にしているのだが、各回で取り上げたお店や料理には実在のモデルがあるようで、事実私もこのマンガで取り上げられたお店のいくつかには、足を運んだことがある。
大阪のたこ焼き屋、これは中津にある屋台のたこ焼き屋で、まさにこのマンガの雰囲気そのもの、隣に座った見知らぬ者同士がいつの間にか仲良くなる不思議な店だった。あと朝から酔客が集う赤羽の居酒屋は、かつて私が通った王子の喫茶店を思い出させた。赤羽も王子も工場地帯でタクシー会社も多く、夜勤明けの労働者が多いから朝から酒を飲んでいる人が多いのだろう。


このマンガを読んで、「グルメ」とは巷で人気の店に行って自慢の料理を食す人のことではなく、自らの食事にドラマを作り上げることができる人のことを言うのだな、と思った。