『ホームレス中学生』

ホームレス中学生
私が「ブクオフで105円コーナーに並んでいるような、一昔前のベストセラーとかタレント本を読むのが好きだ」と言っていたら、職場の先輩が「じゃあこれ読む?」と言って貸してくれた。本来の私の趣旨(みんなが忘れ去った頃に掘り返す)とはちょっと違う気もしたのだが、断るのもなんなので素直に家に持って帰って、そのまま1ヵ月くらい放置してあったのを思い立って読んでみた。
誤字脱字がところどころにあって*1、私より先に読み終えたつれあいが「よくできた作文」と言い捨てたのも納得なのだが、そこはまあタレント本のこと。むしろ文章の下手さがゴーストライターを使っていない証拠とも思えて、かえって味わい深い。


構成として絶妙だと思ったのは、前半部分でしきりに「楽しかった頃の思い出」として母親の話が出てくるのだが、何故か田村少年がホームレスになってしまった“現在”の母親については全く語られない点。父親や兄姉のことは書かれているのに、母については何の説明もないまま、過去形の話だけが語られる。このあたり、「あれ、お母さんはどこに行ったんだろう?」と読者を引き込む仕掛けとしては、なかなかよくできていると感じた。
ただその反面、母親が出てこない理由が語られてからの後半部分は、もう徹底した母性崇拝…というか母親礼賛があふれかえっており、私はここはちょっと過剰に感じた。ラストの母親への手紙は良かったけど、それまでの「全ての出会いは母親の導きだった」的な文章には、ちょっと行き過ぎというか短絡さを感じた。他人の私が口を挟むことではないのは承知の上で。


それにつけてもこれを読んで思ったのは、自分の母親のことではなく、自分の子供のことだった。
子供が公園で暮らしたりしなくてもいいように頑張ろう。それから子供と一緒に買い物に行った帰りには、楽しいことを話しながら手をつないで帰ろう。
私が生きている間に、子供に良い思い出をなるべくたくさん作ってあげたいと思った。

*1:「一様に」のことを「一往に」とか、ワープロ誤変換も含めて。それがそのまま残っているのも味というか何というか。