「さよなら、さよならハリウッド」

さよなら、さよならハリウッド [DVD]
「オスカーを2回獲ったものの最近はめっきり落ち目でCMなどを撮っている映画監督」…というなんとも自虐的なキャラ設定の主人公を、ウディ・アレンが余裕たっぷりに好演(彼自身「アニー・ホール」でアカデミー監督賞と最優秀作品賞を受賞している)。「ニューヨークを撮らせたら一番」とか「芸術家気取りの作品ばかり撮っている」とか「神経症で薬漬け」なところとか、もうそのまま自分の話じゃないかと思えてくる。
そんな落ち目監督ヴァルのもとに、元妻のエリー(ティア・レオーニ)から、新作のオファーが舞い込む。久々の大作の依頼にも、ヴァルは複雑な心境。何故ならその映画のプロデューサーは、エリーを寝取った男だったから。しかし何とか正式に監督となり、いよいよクランクインを目前に迎えたある日、突然ヴァルの目が見えなくなる。盲目のままメガホンを取るという前代未聞の事態! 果たして映画は無事に完成するのか…。


作品の冒頭で、「ヒッチコックトリュフォーの『汚名』を傑作だと褒めていた」という話が出てくる。いわく「芸術的でありなおかつ商業的だから。ヒッチコックは両方大切だと知っていた。大衆を大事にしないと自己満足で終わる。そんなの芸術的マスターベーションで、監督のナルシシズムにすぎない」と。
それに対し主人公のヴァルは「僕は古典的ナルシシストだ。マスをかいたあと自分を抱き締めたくなる」と反論していて笑った。ウディ・アレンの作品はマスマーケットに受けないという意味において商業的とは決して言えない(私は大好き)。ハリウッドでこういう作風を貫くことは、想像以上にしんどいことなのだろうか。


※以下ネタバレ
盲目のまま撮影してメタクソに仕上がった作品は、アメリカでは酷評の嵐を受ける。しかし何故かフランスでは絶賛され、そのおかげでフランスで次回作を撮る話が舞い込み、ヴァルはエリーとパリへ向けて旅立つ。タイトルどおり、「さよならハリウッド」である。
本作でウディ・アレンカンヌ映画祭を初めて訪れたらしいから、このご都合主義のエンディングは、その辺のちょっとしたサービスも兼ねてのことなのだろう。「フランスで絶賛」の報を受けたヴァルは、天を仰いで「この世にフランスがあってよかった!」と叫ぶ。このシーンはさぞかしカンヌでウケたのではないか。


他の作品と同じような神経症の男を演じているウディ・アレン。またかという気もするし、ストーリーもかなり甘ったるいのだが、ここまでセルフパロディが徹底していると、いっそ清々しさを感じた。

「見える。見える。なんて美しい街なんだ。君はなんて美しい女性なんだ。…世の中の夫はしばらく失明するべきだ!」