「バレエ・カンパニー」

バレエ・カンパニー [DVD]
昨年亡くなったロバート・アルトマン監督*1の、2003年に公開された作品。80歳近くにもなって、こんな題材を扱うみずみずしい感性を持ち続けていたのがすばらしい。
シカゴに実在するあるバレエ団の数週間を追った、ドキュメンタリータッチの映画。とくに大きなドラマはなく、一応の主人公ライ(ネーブ・キャンベル)が代役から本番の出演を勝ち取り、私生活では恋人もできるのだが、ある演目の本番中に怪我をしてしまう…というストーリーを軸に、バレエカンパニーのダンサーや監督、振付師たちの感情を追っている。
ダンサーたちは(ネーブ・キャンベル以外は)全て実在のカンパニーで実際に踊っている人たちだそうだ。一応モダンバレエというのだろうか、こういうのを見たのは私は初めてだったのだが、作中に何度か挿入される舞踊シーンは、なるほどの説得力と美しさだった。
プロのダンサーたちの中に入って、自身も幼い頃からバレエをやっていたというネーブ・キャンベル(「スクリーム」シリーズの主人公の人)もよく頑張っている…が、さすがに体の作りが若干周囲の「本物」たちとは違っていた。なんというか、充分スリムなのだが、バレエ体型ではないのだ。まあ、しょうがないという頭の整理で。


アルトマン監督お得意の群像劇…になるかと思って見ていたのだが、細かい枝葉のエピソードはあったものの、ライを中心に淡々とバレエ団の日常が描かれているだけで、エンドロールが流れてきても「あれ、もうおしまいなの?」という感じだった。バレエシーンは時おり息を呑むほどの美しいものだったけど、私としてはもっと人間同士が絡み合うドラマを見たかった。本作ではダンサーとディレクターの対立という伏線もチラリとあったのだが、全体にそれらは抑制された感じだった。
作中最も楽しかったのは、バレエ団のダンサーたちが開いていたクリスマスパーティーの余興の場面。彼ら自身が出演した作品や、カリスマディレクターやフランスなまりの振付師など茶化す寸劇をやっていたのだが(学生が名物教師の物真似をやるノリ)、この映画自体が本職のプロである彼らにとっては「彼ら自身を題材にした芝居」なのに、さらにそれを芝居化していて笑っているのが、「メタだなあ」と思えて面白かった。


ディレクター役のマルコム・マクダウェル(「時計じかけのオレンジ」でアレックス役だった人!)がものすごい存在感。あとライの恋人役のジェームズ・フランコ(「スパイダーマン」でハリー役をしていた人)もよかった。ライとの最初の一夜が明けて、キッチンでトマトとピーマン入りオムレツを作る姿が最高。