「太陽の季節」

太陽の季節 [DVD]
NHKBSで石原裕次郎の映画特集をやっていたうちの1本。録画で。
原作のほうは古本屋で105円で買ったのを読んだことがあって、あとこの映画の撮影裏話についても慎太郎氏の著書『弟』で読んだことがある*1。何だかんだ言って、作家としての石原慎太郎を私は好きなのかもしれない…と思い至り、やや暗い気持ちになった。
『弟』によると(どこか本棚の隅に追いやられていま見当たらないのだが)、確か慎太郎の『太陽の季節』を映画化することになったとき、プロデューサーの水の江瀧子に見初められて裕次郎を銀幕デビューさせる話になり、そのテストとして本作では「主人公(長門裕之)のボクシング部の同僚役」というチョイ役を与えられたのだと記憶している。
このボクシング部というのがどう見ても体格より演技で選ばれた面々のようで(ボクシングの試合が相当ヘナチョコで笑える)、その中でタッパのある裕次郎はひときわ目立っていた。この演技に満足した映画業界のお偉方が、『狂った果実』への主演にGOサインを出したというのも、まあ頷ける。
ちなみに慎太郎氏本人も原作者の特権で(?)チラッと出演している。長門裕之が試合の後で学校の保健室から出てきたとき、玄関ですれ違うラグビー部の青年がそれ。「ハクい女、いたかい?」…なんていう、ちょっと恥かしいセリフを、ややはにかみながら吐いている。


三島由紀夫石原慎太郎との対談で、『太陽の季節』のことを「障子を破る話ね」と切り捨てていたが*2、その「障子を破る」場面については、さすがにこの時代の映画では、裸の長門裕之の上半身だけが映し出され、それを見た南田洋子が息を呑む…という表現にとどまっていた。蛇足ながら。


まあ映画そのものとしては特に見るべきところはないと思ったが、この映画公開当時(1956年)の若者の風俗を見られたのが、単純に面白かった。
部活の後だろうが夏休み中だろうが、若者たちは繁華街へ繰り出すときには、みんなちゃんとジャケットにネクタイ、あるいは学生服といった正装に着替えるのだ。これは今となっては新鮮な光景だと思った。

*1:『弟』を読んだときの感想については2005年6月17日の日記参照。

*2:三島由紀夫対談集 源泉の感情』の中での対談。2006年2月28日の日記参照。