松涛

昨日爆発事故のあった渋谷の松涛*1だが、ニュースで住所を聞いた瞬間に、三島由紀夫豊饒の海四部作を思い出した。
『春の雪』の主人公・清顕が住んでいた松ヶ枝邸は、確か道玄坂を登りきったこの松涛あたりにあったはずだ。あの辺の一画は、太平洋戦争以前は華族のお屋敷が並ぶ住宅街だったとか。しかしそれも空襲で一旦は焼け野原になり、今では渋谷側から雑居ビルが進出してきている。
豊饒の海第三巻の『暁の寺』では、焼け野原になった松涛を、四部作の狂言回しである本多が尋ねる場面がある。そこで往時の豪奢な邸宅は瓦礫の山に変わり果て、老いさらばえた鬼女のごとき侍女が現れるのだ。四部作を貫く「輪廻転生」のモチーフを象徴する、印象的な場面のひとつ。
今回の事故のニュースを見ていて、(そういう風流なお話ではないのだが)何かしら輪廻転生というかこの世のはかなさを思ってしまった。

*1:ちなみに先日「大日本人」を見たQ-AXとかいう映画館も、このあたりにあったな。あのすぐ近くなのではないだろうか?