「春の雪」

春の雪 [DVD]
三島漬け番外編。
大正時代の風物を非常にきらびやかに壮麗に再現していて、本当に映像は息を呑むくらいきれいなのだが、逆にちょっときれい過ぎるかも。生活感がない。
まあ、華族の悲恋をつかまえて生活感もへったくれもないかもしれないが。
もともと三島由紀夫はこの『豊饒の海』四部作で、中世文学を近現代に再現しようと試みていたようだから、映像が「浮世離れ」しているのは、ある意味で原作の目指すところに忠実といえるのかも(多少皮肉を込めて)。


言っても詮ないこととは知りつつ、鼻についた点をいくつか。
難点その1.妻夫木聡が清顕役を演じるには年を取りすぎている。一応18,19歳の設定なのだが、もう少し子供っぽい俳優さんが演じてもよかったと思う。
難点その2.聡子(竹内結子)の顔が白すぎる。大正の華族の女性はこんなお化粧だったのかな?
難点その3.同じく聡子が「受身の女」にすぎる。何の主体性も感じられず、原作を忘れたとしてもこれでは清顕とともに自ら悲劇を選んだようには感じられない。
難点その4.本多(高岡蒼佑)が軽すぎる。しかもあろうことか剣道部に入っている!(原作では清顕と一緒に「我々もいずれは、ああいう武ばった輩と一緒くたにされ“大正時代の青年”と呼ばれるのだろうな」と皮肉っていたのに*1


あと希望としては、清顕と本多は、原作どおりお互いを「貴様」と呼び合って欲しかった。

*1:そしてその「大きなうねりの中に生きる個」というのが、豊饒の海四部作の重要な主題でもあるのだが