『薔薇よ永遠に ―薔薇族編集長35年の闘い』

薔薇よ永遠に―薔薇族編集長35年の闘い
日本で最初の?本格的ゲイ雑誌『薔薇族』。その編集長・伊藤文学氏が、かつて送られてきた読者からの手紙を引用しながら、35年の歴史を振り返った本。
薔薇族自体には別に興味は無いのだが、本書では一章を割いて「『薔薇族』的三島由紀夫考」と題し、三島由紀夫が変名で執筆したと言われている同性愛小説『愛の処刑』を全文掲載しているほか、薔薇族周辺の執筆者が三島を論じている…と知って、とりあえず購入して読んでみた。


率直に言って『愛の処刑』は、三島由紀夫の作ではないという感想を持った。三島の『憂国』と似ている箇所が随所に見られるのだが、これは『憂国』のパロディを同人誌に発表したものなのだと思う。ただそうだとしても、三島と同じように「若い青年が腸を傷口から溢れさせながら、愛する人の前で切腹自殺を遂げる」というモチーフに興奮を感じる人間がいたことは、間違いない。こうした感覚には、ちょっと私は共感しかねるのだが。
…と思っていたら、伊藤文学氏のブログに「三島作と断定!」という東京新聞の特ダネ記事が引用されていた。

「作家・三島由紀夫(1925〜70年)が十代で書いた短編小説5編をはじめ、後年の書簡54通、創作ノート16点など、大量の未発表資料が、新潮社から刊行中の全集で初めて公表されることが分かった。芸術家の内面を掘り下げた短編などに確かな描写力が読みとれ「早熟の天才」の形成期を具体的に物語る貴重な資料だ。
また、同性愛や切腹を描き、60年に別名で同人誌に発表された小説『愛の処刑』の三島原稿が見つかり、初めて三島作と確定された。
東京新聞 2005年11月4日(金)夕刊)

どうも承服しかねるのだが、やはりこんな特異な性癖の人間はそうそういない、ということだろうか?


ところで福島次郎氏の『三島由紀夫−剣と寒紅』*1は『薔薇族』でも大きな反響を呼んだらしく、これが引き金となってちょっとした奇妙な論争が起こっている。それは「三島由紀夫の男性器は大きいか小さいか」というもの。
『剣と寒紅』で福島氏は、三島の性器を「私(引用者注・福島氏のこと)とは比較にならぬぐらい立派なものなのであった。」と書いているが、福島氏と同じように三島と同衾した経験があるという『薔薇族』スタッフ藤田竜氏*2は、ソレを見たときに「お気の毒と思った」と書き、性器へのコンプレックスが肉体改造や露出癖につながり、ひいては後年の作品群のマッチョイズムにつながっていったのではないか…と推理している。
この「大きかった」「小さかった」という相反する2つの証言(?)を受け、三木良という人が「三島由紀夫雄茎考」と題し(なんというタイトルだ!)、半裸になった三島の写真や、周辺の人間の証言などをひとつひとつ挙げ、結局は「立派なものだった」という結論を出している。
非常に下世話なテーマおよび議論なのだが、その辺がいかにも…斯界らしく思えて面白かった。

*1:8月28日の日記を参照

*2:創刊号の表紙絵を描いたのもこの人