『石の扉 フリーメーソンで読み解く世界』

石の扉―フリーメーソンで読み解く世界 (新潮文庫)
明治維新の裏側には、長崎の「グラバー邸」でおなじみのトーマス・グラバーが暗躍していた、という話。筆者の推理(根拠薄弱)によると、グラバーは幕末に、伊藤博文明治維新の立役者だけでなく、実は坂本龍馬も欧州へ密航させていたと思われ、そうした活動を行ったグラバー自身、フリーメーソンの「自由・救済・真理・平等・友愛」の精神を日本に広める使命を帯びていたのではないか…、ということだそうです。
全部憶測ですけど。


筆者がフリーメーソンについて、その始まり(紀元前のこと)から現代社会への浸透まで、つらつらと書いているのだが、それらの一次資料がほとんど提示されていない。筆者が誰かから聞いた話とか、ひどいのになると映画やドラマで見たのを「これはフリーメーソンのことをよく言い当てている」とかなんとかいいながら、資料として挙げているだけ。


よくアメリカがフリーメーソン国家であることの例証として、1ドル札の図案について語る人がいます。紙幣の裏面の左側にあるピラミッドと「全能の目」が、フリーメーソン独特の紋章であることを指摘する類の話ですが、この本でもフリーメーソンの一員である「Z氏」なる人物の説明として、このように書かれていました。

「一ドル紙幣裏面に、白頭鷲の十三本のストライプ、十三本の矢、十三枚のオリーブの葉、十三の星、ピラミッドの十三段の石段、少なくとも五つも登場する十三という数字は、そのスコティッシュ・ライトの十三階位を象徴しているのです。」

スコティッシュ・ライト」というのは、フリーメーソンの中で3階位以上になってはじめて入会が許されるサークルのようなもので、現在アメリカを中心に世界で100万名の会員がいるとのこと。

 お分かりですか? 一ドル紙幣に登場するすべての十三は、十三州ではなく、アメリカという新大陸に渡り、独立戦争を戦った全国民を称えて、「おまえたちは選ばれた民、ロイヤルアーチ*1だ」と十三階位になぞらえたのだ、とZ氏は言うのです。
 そして、その上にある「全能の目」は、フリーメーソンが指導的立場に立っていることを表し、「我々の計画に同意せよ」(ANNUIT COEPTIS)*2と呼び、これが「新しい世紀の秩序」(NOVUS ORDO SECLORUM)*3なのだ、と、高らかに宣言しているのだ、と告白します。


で、結局フリーメーソンとは何なのか。筆者はフリーメーソンの日本グランドロッジを訪ね、そこでいろいろと話を聞いたと書いています。
それらの話をいろいろ総合すると、どうやら西洋発の友愛組織というか、ボーイスカウトの大人版というか…それくらいのものみたいですね。
でもそれが、秘密結社であるがゆえに、誰かが憶測で「これはフリーメーソンの仕業だ」と言っても、反論はしない。存在しないのだから、反論ができないというわけ。それでますます、何でもかんでも「フリーメーソン的」と言われてしまったり、「これはメーソンの象徴だ」と深読みされてしまうという、悪循環のようですね。
ちなみに筆者自身がフリーメーソンに入ったか否かは、(半ば意図的に)言明されていませんが、「メーソンの印のついた指輪をはめていて、外国のブラザー(メーソンの会員同士でこう呼ぶ)に助けられたことが何度かある」と(自慢げに)語っています。


興味を持った方は、こちらの日本ロッジの元グランドマスターの方のロングインタビューをご参照ください。

日本ロッジ元グランド・マスター・ロングインタビュー
ベールを脱いだ日本のフリーメーソンたち
http://www.hh.iij4u.or.jp/~iwakami/fmei.htm

*1:スコティッシュ・ライト十三階位の別名、「神殿の基礎石」という意味

*2:1ドル紙幣の左側のピラミッドの上に書いてあるラテン語

*3:1ドル紙幣の左側のピラミッドの下に書いてあるラテン語