『ジェイムズ・ジョイスの謎を解く』

ジェイムズ・ジョイスの謎を解く (岩波新書)
柳瀬尚紀・著。
ユリシーズ』の第12章「キュプロクス挿話」の一人称は、実は「犬」だった…という世紀の大発「犬」を、事細かに検証していく知的パズルゲーム


新たな読み方を発見したとはいえ、全18挿話のうちの1つの章について説明するのに、まるまる新書1冊もかかるとは…。柳瀬氏の翻訳は、つまりはこのように、訳本と原典(と、できれば氏による解説)を突き合わせて読むことに、最大の興趣があるのだと思う。


面白かったのは、1995年11月3日に読売新聞紙上ではじめて筆者が「<俺>=犬」説を披露して、国内外からさまざまな反応があったそうだが、外国からのもっとも早い反応はジョイスの縁者からだったという。

ジェイムズ・ジョイスは、自分が実に貧しい創造的想像力しか持ち合わせていないと語ったことがあります。金の扱いがまるでできないことを除けば、私の受け継いでいるのもせいぜいそれしかありませんので」と、同氏はアイリッシュユーモア(?)を付け加え、「私の想像力では<俺>を犬として第12挿話を読むことはできそうにありません」と書いてきた。


柳瀬氏訳の『ユリシーズ』は、現在3冊刊行中であるが、そのうち1冊は、実にこの「第12挿話」だけに割いている。
ユリシーズ〈1~3〉ユリシーズ〈4~6〉ユリシーズ〈12〉