『定訳 菊と刀 日本文化の型』

菊と刀―日本文化の型 (現代教養文庫 A 501)
いまルース・ベネディクトの『菊と刀』を読んでいる。
異文化交流とかのゼミに入っていて、比較文学なんかの講義も受けていた文学部卒の私だが、恥ずかしながら本書を手に取るのは今回が初めて。
ルース・ベネディクトが女性だというのも、日本には一度も来たことがなかったというのも、初めて知った…。


第二次世界大戦当時、ベネディクト氏はアメリカ政府の要請で、日本人俘虜や米国内の移民たちを調査し、敵国日本人の国民性を研究した。その成果を平明に書き直したのが本書。
スタンスはあくまで文化人類学的なので、欧米人にとって奇異に見られる風習や心性についても、それが良いか悪いかを判断するのではなく、その根本にあるものを客観的に読み解こうとしている。
読みにくい和訳だが、ちょっと引用してみると

…われわれは、悶着が単に似たりよったりの二つのことがらの間に起こったものにすぎない場合に、とうてい和解することのできない大きな差異があるように思い込み、逆にある国民が、その経験と価値体系の全体によって、われわれの意図したところのものとまるで異なった行動方針を心の中に抱いているさいに、共通の目的をもっているなどということを口にする。われわれは彼らの習慣や価値がどんなものか、ということを発見する機会をもとうとしない。もしそうしたならば、ある行動方針は、それがわれわれの知っているものと違うからといって、必ずしも悪いとは限らない、ということが発見されるのであるが。

…こんな感じ。
こういうスタンスを持ったすばらしい研究が60年も前に行われているのに、どうして現在のアメリカという国は、平気で(無邪気に)自国のスタンダードを他国に押し付けようとしているのだろう?