『霊長類ヒト科動物図鑑』

霊長類ヒト科動物図鑑 (文春文庫 (277‐5))
向田邦子・著。
先々週くらいの朝日新聞で、「国語のテストから長文問題が消える?」とか、そういう記事を見ました*1。内容は、「最近は著作権がらみの問題がややこしいので、テストで小説や評論を気軽に引用することが難しくなって、学校や予備校が頭を悩ませている」という話でした。
その記事を読んだ後にたまたまこの本を読み始めたのですが、初めて読むのに、明らかに昔読んだことがあるエッセイがいくつか収録されてました。子供のころ台風が来ると一家が大騒ぎだったという「傷だらけの茄子」という一篇とか。
何でかな? と思って記憶をたどると、どうも国語のテストの長文問題で読んだような気がするんですよね。向田さんのウィットに富んだ文章や、最近あまり目にしなくなったきれいな言い回しが、きっと国語の先生にとっては素材にしやすかったんでしょうね。
ことほどさように、名文との出会いの機会として、国語のテストから長文問題はなくさないで欲しいなあ…と思うんですけどね、個人的には。


印象深かったのは、飛行機に乗るのが怖いという話を面白おかしくつづった「ヒコーキ」という一篇。

 このところ出たり入ったりが多く、一週間に一度は飛行機のお世話になっていながら、まだ気を許してはいない。散らかった部屋や抽斗のなかを片づけてから乗ろうかと思うのだが、いやいやあまり綺麗にすると、万一のことがあったとき、
「やっぱりムシが知らせたんだね」
 などと言われそうで、ここは縁起をかついでそのままにしておこうと、わざと汚いままで旅行に出たりしている。

向田さんご自身、台湾の飛行機墜落事故でお亡くなりになられていることを思うと皮肉に感じます。
その際も、散らかった部屋が、もう帰らない主を待っていたのでしょうか?

*1:正確には9月25日の朝日新聞朝刊の記事。http://www.asahi.com/life/update/0925/003.html